あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


「だから……今日、あおばを連れ出したんだ。これでも俺、本当はめちゃくちゃ怖かった。でも、なーんか、あおばと二人で逃げたらうまくいきそうな気がしてさ」

隣の私を見て、律が優しく口角を上げる。

「……コーチの声も、部員の視線も、親の小言も届かない場所で……俺はただ、静かに過ごしたかっただけなんだ。そしたら、なんでもいいから答えが見つかりそうな気がしてさ。まぁ、実際、そんな簡単には見つかりそうもないけど」

律が私をじっと見つめてくる。
その瞳は少し潤んでいて、私の言葉を待っていた。

私は何も言わず、そっと手を伸ばして律の背中に触れた。
借り物の大きなTシャツ越しに伝わる体温は、温かくて、少しだけ震えていた。

「見つけないといけないのかな」
「………」
「大人たちはみんな、10代の頃の悩みや挫折を全部解決して大人になったのかな」
「うーん……どうだろう。そうとも思えないけどな」

律が小さく笑う。

「本当わっかんねぇな、あおば。俺ら、これから、どうなるんだろうな」

どうしたらいいのか、分からない。
何が正解なのかも、分からない。
あのおじさんの言う通り、本音でぶつかったらうまくいくの?
それでもし、もっと問題が大きくなったら?
親の言うことに、黙って頷いていれば、全てうまくいくのかもしれない。
だけど、どうして、そうじゃないんだって、何もできない自分がそう思ってしまうんだろう。

外界の音を遮る雨音の中で、私達はそれぞれの抱える葛藤と、どうしても捨てきれない恐怖にまだどっぷりと浸かっていた。
明日になればどうなるか分からない。
でも、この薄暗い部屋で分け合った体温と、律の届きそうで届かない甘い想いだけが、優しく私達を包み込んでいた。