律のすぐ隣に腰を下ろすと、律は左手を顔の斜め上に伸ばしてレンズをこちらに向けて構えた。
そして、肩と肩がぶつかり合う距離なのに、もっと私に近づいてくる。
「もっとくっつけって。ちゃんと二人入ってるかどうかも確認できないんだから」
「こ、これ以上、どうくっつけって言うのよ」
パッと横を向いたその時、律の顔があまりにも近くにあって、思わず息を呑んだ。
律の瞳に捕まり、一瞬身動きが取れなくなる。
先に目を逸らしたのは、私ではなく、律の方だった。
キョロキョロと目を激しく泳がし、突然シャッターを押す。
「ちょ、ちょっと。今のちゃんと撮れたの?」
照れ隠しに少し早口に言うと、律は私とは目を合わさず「おお、完璧に撮れたし」と、後頭部を指で掻いていた。
まだまだ残っているフィルム。
現像するまでどんな顔で映っているかも分からないし、スマホみたいに気に入らないからって消すこともできない使い捨てカメラ。
そこに残されていくのは、誰かに見せるためのスマートな私達じゃない。
傷ついて、疲れ果てて、全部放り出して逃げてきた、未熟でカッコ悪い等身大の私達だ。
だけど、こうやって少し甘酸っぱい経験もできる、素敵なカメラだと思う。
律がカメラを自分の脇へ置くと、ふっと静寂が戻ってきた。
屋根を叩く雨音だけが、私達を優しく包み込んでいる。
私は膝をぎゅっと抱え直し、ずっと胸の奥につかえていた、あの日の出来事を口にした。
今なら、聞いてもいいような気がして。
