あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


「……部活とか、学校とか。まあ……色々です」

律が消えそうな声で答えると、おじさんはお茶を一口すすり、静かに言った。

「いいかい、若い時の『サボり』ってのはね、ただの逃亡じゃないんだよ。心が『これ以上進むと壊れるぞ』って教えてくれた、大事なブレーキなんだ。ずっとアクセルを踏みっぱなしで走れる人間なんていないんだから」

おじさんは律のギプスで固められた足と、私の手元にある使い捨てカメラを交互に見つめた。

「逃げるってのは、自分を大切にするための立派な選択だ。一度立ち止まって、自分がいまどこに立ってるのか確かめる。それができるやつはね、次に走り出したとき、もっと遠くまで行けるんだよ」

おじさんはそこで言葉を区切り、私たちの顔をじっと見つめて、深く頷いた。

「それにさ……自分を守るために立ち止まった時間っていうのは、自分の中にあった『本当の気持ち』が、静かに浮かび上がってくる時間でもあるんだよ。ノイズが消えて、本当に守りたかったものが見えてくる。だからね、罪悪感なんか持たずに、今日くらいは思い切り立ち止まりなさい」

ノイズが消えて、本当に守りたかったものが見えてくる――。
おじさんのその言葉は、私達の胸の奥底にすとんと落ちて、静かに波紋を広げた。
誰にも言えなかった私達の免罪符になると同時に、自分が何に怯え、何を一番大切にしたいと思っていたのかを、深く問いかけてくるようだった。