あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


店主に急かされるまま、私達は後部座席に滑り込んだ。
頭からはポタポタと雫が落ち、服も濡れてしまっている。
小さなタオルで律と一緒に髪を拭いていると、バックミラー越しにおじさんと目があった。

「急に雨が降り出したから、なーんか二人のことが気になってねえ、店を閉めて出て来たんだ」
「あ!すみません、お店もあるのに、俺らなんかのためにわざわざ……」

律がバツが悪そうに俯く。

「いいんだよ。こんなに雨が降っちゃお客さんなんか来ないんだから」

おじさんは優しく笑うと、またバックミラーで私たちを見た。

車は激しい雨のカーテンを引き裂くように走り出し、店舗の奥にある古風で広い日本家屋へ案内された。

「今日はうちの二階に泊まっていきな。電車も明日まで動かないだろ。服も、昔息子たち着ていたものが残ってるから、それに着替えたらいい」

初対面のはずなのに、田舎のおじさん特有のどこか懐かしい温かさで、私達を当たり前のように受け入れてくれた。
おじさんが貸してくれたのは、少し大きめのTシャツと短パン。
着替えて二階の畳の部屋へ入ると、激しい雨音が屋根を叩く音が響き、外界とこの部屋を完全に隔絶しているようだった。

夕食後、おじさんが「温かいお茶でも飲みな」と、縁側近くの部屋に湯呑みを3つ運んできた。
畳の上に胡坐をかき、おじさんは外の土砂降りを見つめた。

「電車、明日には動くといいね」

私がぽつりと言うと、おじさんは「ふふっ」と優しく笑った。

「動かなきゃ動かないで、ここに居りゃあいいさ。私も、子供達が結婚して出ていって、女房に先立たれてからは、一人で寂しかったし。久しぶりにこの家で誰かと話せて、今日は気分がいい」

ゆっくりと言って、微笑んでくれる。

「ところで……あんたら、何から逃げてきたんだい?」

ストレートすぎる問いかけに、私と律は思わず息をのんだ。
けれど、おじさんの目には責めるような色は一切なくて、ただただ温かかった。