霧島神宮駅のホームに降り立つと、山間特有のむせ返るような濃い緑の匂いと、鼓膜を揺らすほどのけたたましい蝉時雨が全身を包み込んだ。
空はどこまでも高く青く、容赦ない夏の光がアスファルトを煮詰めている。
「……次のバス、30分後だって」
時刻表を見上げた私が吐息まじりに言うと、隣に立つ律はカツン、カツンと松葉杖の位置を小さく直した。
整った鼻筋に汗の粒を浮かべ、クールな顔立ちをしながらも、すこし困ったように眉を下げて「マジか」と苦笑いする。
頑丈なギプスで固められた足先が、真夏の光の下でやけに痛々しい。
「どうする?ここのバス停屋根ないし、このままここで30分待つのはきついよね」
私が言うと、律は暑すぎる空を険しい顔をして見上げながら、「死ぬな、これは」と呟いた。
「少し歩いてみようか。日陰を探しがてら。律、足、大丈夫?」
「ん、大丈夫。……あおば、日陰入って。熱中症になるぞ」
気遣いを見せつつも、松葉杖の扱いにはまだ慣れていないのか、たまにバランスを崩しそうになって慌てる姿は、どこか捨てられた子犬のように少し頼りない。
「あ、そうだ。これ、今日はお前が持ってて」
律は松葉杖を脇に挟み、ズボンのポケットからあの使い捨てカメラを取り出し、私に差し出す。
「ほら、俺、両手塞がってて撮りたい時にすぐに取り出せないから」
「了解!律のこと撮り放題だね」
「あんま無駄には使うなよな。それに、これはお前を撮るためのものなんだから、今までみたいに俺の許可なしには撮るなよ」
「なんでよ。両手塞がってて撮れないんでしょ?チャンスじゃん」
私がイタズラに笑って足早に歩き出すと、律は「おい!」と慌てて松葉杖を鳴らして追いかけてきた。
