あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


日豊本線は、姶良(あいら)の市街地を過ぎると、ゆっくりと内陸へと舵を切っていく。
錦江湾の青い海が後ろへと遠ざかり、代わりに車窓を埋め尽くすのは、濃い緑の山々と、太陽の光を浴びて青々と育つ田んぼの風景だ。
トンネルに入るたび、車内が薄暗くなり、ガタガタという轟音が鼓膜を震わせる。
トンネルを抜けるたび、山々の緑は一段と濃く、深く、静かになっていく。

重苦しい現実の鹿児島市街から、どんどん引き剥がされていく感覚。
それは恐怖でもあり、どこか恐ろしいほどの解放感でもあった。

「……もうすぐだな」

律がポケットの中の『霧島神宮』と書かれた切符をそっと指で確かめながら、静かに言った。
私は小さく頷き、重ねられた律の手をギュッと握り返した。
こんなに律の手を握っているのは、初めてかもしれない。
心拍数が上がってることがバレないように手を離そうとしても、もう少しだけ、律の体温を感じていたいと思ってしまう。
もう少しだけ、こうしていたい……。

山あいを縫うように走る列車は、エンジン音を響かせながら、目的地へ向けてさらに高い標高へと坂を登っていく。