あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


「謝るなよ。俺が勝手に待ってたんだ。お前がどんな顔で出てくるか分かってたのに、一人で放っておけるわけないだろ」

律の手が静かに伸びてきて、私の握りしめた手に重ねられた。
骨っぽくて、大きくて、少しだけ熱を持った手。
その温もりが伝わった瞬間、胸の奥の冷たい塊が解けていく気がした。

「……俺の方こそ、ごめん。格好つけて出てきたくせに、足、こんなだし。市電乗るのも一苦労でさ。本当なら……お前をスマートにどっか連れ出してやれたら良かったんだけどな」

そう言って自嘲気みに笑う律の顔は、あまりにも優しくて、私の不甲斐なさを丸ごと包み込んでくれるようだった。
この人は、自分が一番痛くて苦しいはずなのに、いつだって私のことばかり考えている。

「そんなこと……ない。律は、すごく格好いいよ」

照れ隠しに私が視線を外すと、律はフッと満足そうに鼻を鳴らした。

列車は重い金属音を響かせながら、竜ヶ水(りゅうがみず)駅付近へと差し掛かる。
進行方向右手の車窓いっぱいに、息を呑むような光景が広がった。

深青に染まる錦江湾。
真夏の太陽を跳ね返し、波頭がまるで砕けたガラスのようにギラギラと輝いている。
そしてその海原の対岸には、圧倒的な存在感で鎮座する桜島があった。
山頂からうっすらと棚引く白い噴煙。
緑の裾野が海へと滑らかに落ち込んでいく雄大な姿は、鹿児島の誰もがいつでも見上げている象徴だ。