逃げたい。
もう、どこでもいいから——。
どこへ向かっているのかも分からないまま、私はただ、あの息が詰まるホールから逃げ出そうと無我夢中で足を一歩踏み出した。
その時だった。
「……あおば」
耳の奥に届いた、少し低くてかすれた声。
ハッとして足を止めた。
涙で滲む視界を拭うと、搬入口の脇、直射日光をかろうじて遮る建物の小さな影に律の姿があった。
冷たいコンクリートブロックの上に腰かけている。
両脇には二本の金属製松葉杖。
シーネと太い包帯で頑丈に固定された右足を痛々しく投げ出し、ポロシャツの首元はダラダラと垂れ落ちる汗で重く色を変えている。
日陰とはいえ、体感温度は三十五度を超える夏の屋外だ。
黒髪の前髪が汗で濡れて額にくっつき、鋭く端正な顔立ちには、激痛を耐えるようなわずかな歪みが浮かんでいた。
廊下ですれ違ったあの日、全治一ヶ月の疲労骨折だと言っていた。
歩くことすら激痛が走るはずのその足で、律はどれほどの時間をここで耐えていたのだろう。
どれだけ過酷な熱気の中で、私の出てくるのを待っていたのだろう。
