あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


コンクール当日。

県大会の会場である市民ホールの舞台裏は、独特の重苦しい熱気に包まれていた。

私はメンバーじゃない。
ステージで楽器を奏でることすら許されない「裏方」だ。
言われるがままに譜面台を運び、部員たちの楽器や大型の打楽器を搬入する。
手袋越しに伝わる冷たい金属の感触が、昨日までの惨めな敗北感を容赦なく呼び覚ました。

出番を待つ部員たちの横顔が、袖の暗がりに並んでいた。
その中央で、スポットライトの反射を一身に浴びて輝いているのは、ピカピカに磨き上げられたトランペットを抱える松下さんだった。

……なんで、そこに立っているのが私じゃないんだろう。

ドロリとした黒い感情が、胃の底から押し寄せて喉を刺激する。
あんなに練習した。
指の皮が剥げ、唇が切れ、血の味がしても吹き続けた。
けれど、私には何も与えられなかった。
ガムシャラな努力なんて、音楽の神様の前では一銭の価値もなかったみたいだ。

「白波先輩。行ってきます」
「……うん」

私にひと言声をかけてくれた松下さんは、他の部員に続いてステージへと足を進めた。

舞台袖の隙間から、我が校の演奏が始まった。
ホール全体を包み込む、圧倒的なハーモニー。
そして、その旋律の真ん中で朗々と響き渡ったのは、松下さんのトランペットの音色だった。