あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


「……白波さん、大丈夫?」

隣の部員が心配そうに声をかけてきたけれど、私は頷くことすらできず、逃げるように鞄を掴んで音楽室を飛び出した。

悔しくて、悔しくて……。
それを、どこにもぶつけることができなくて……。
恥ずかしい……。
後輩にメンバーの座をとられるなんて……。
私は、トランペットが吹きたくて、この高校を受験した。
成績がつり合わなくて合格は難しいって言われても、それでも私はここの吹奏楽部に入りたくて猛勉強したんだ。
親の反対を押し切って受験して、合格して……。
去年は1年生だからという理由で、オーディションは受けられても、メンバーには選ばれなかった。
やっと……、やっと今年この高校の吹奏楽部の一員としてステージに上がれると思ったのに……。
それなのに、今年も出られないなんて……。
悔しすぎる……っ。

向かいから、カツン、カツンと、硬く重い金属の音が近づいてきていた。
靴箱へ向かう昇降口の廊下で、私は足を止める。

その音と共に現れたのは、律だった。

脇の下に2本の金属製の松葉杖を抱え、右足を痛々しく浮かせたまま、不器用に階段を下りてくるところだった。
浮かせた右足首は、ギプスで重々しく固定されている。

「……律?」

松葉杖……って、なんで?
そんなに、その怪我、酷かったの?

「……あおば」

律が私に気づき、動きを止めた。
松葉杖を握りしめるその手は固く強ばり、顔色は悪く、唇はぎゅっと結ばれている。
泥だらけで走っていた、あのキラキラと輝く律の姿はそこにはなかった。

「俺、やっぱ、ついてないわ。これ、疲労骨折だって……全治1ヶ月。ハハっ、ダッセー」

……疲労骨折。

ここ数日、部活の時間がズレていたから会えていなかった。
まさか、あの足の痛みが、こんな取り返しのつかない事態にまで悪化していたなんて。