あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


「……無理すんなって。お前、ガムシャラになりすぎると周り見えなくなるだろ」
「無理するよ!するに決まってるじゃん!」

思わず、強い声が出た。

不意をつかれたように目を見開く律。
その瞳に映っているのは、真っ赤な目で、今にも泣き出しそうな惨めな私の顔だった。

「私、上手くなりたいの。松下さんみたいに吹きたいの。無理しないと、追いつけないんだよ……!」

叫んでから、自分がどれだけ身勝手でみっとも無いかを思い知って、唇をかみしめた。
律だって、足の痛みを必死に隠して、父親のプレッシャーと戦って、ボロボロになりながら走っているのに。
そんな律の前で、私は自分の焦りばかりをぶつけている。

律は数秒間、固まったように私を見つめていた。
やがて、小さく息を吐き出すと、痛むはずの右足にぐっと体重をかけて、私のとなりに膝をついた。

「……分かってるよ」

律の手が、そっと私の頭の上に置かれた。
ぽん、と乱暴で、けれど痛いくらい優しい手つき。

「お前が頑張ってんのくらい、俺が一番知ってる」

その一言で、瞳の奥に溜まっていた熱いものが、ボロボロと溢れ出しそうになった。

「だから……焦るなよ。お前の音、俺は好きだけどな」

ズルい。
そんな風に優しく笑うなんて、ズルい。

他の女の子から告白されて、きっとその返事を抱えているはずなのに。
自分の足だって限界のはずなのに。
どうしてそんな顔で、私を一番近くで見つめるの。

「……嘘つき」

ボソッと呟いて、私はまた視線を落とした。

律の足首に巻かれたテーピングの白い端が、ズボンの裾からほんの少しだけ覗いている。
私は、一番言いたい言葉を胸の底に押し込めたまま、唇を噛み締めた。