あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


いま顔を上げたら、絶対にボロが出る。
「告白、見てたよ」なんて言えるはずもないし、「なんて返事したの?」なんて聞く勇気はもっとない。
もし律が照れくさそうに「あいつと付き合うことになった」なんて言ったら、私はこの場でどんな顔をすればいいんだろう。

「あおば……さっきまで練習してたくせに、突然、音が聞こえなくなったからさ」

律の声が、頭上から降ってくる。
気まずさを誤魔化すように照れくさそうに鼻を鳴らす音。

「なんだよ。なんで俺を見ないんだよ。俺、なんか悪いことした?」
「……ううん」

喉の奥がぎゅっと縮こまっていて、カサカサの短い声しか出なかった。

「別に……。ただ、練習に集中したかっただけだよ」

嘘だった。
集中なんて、一秒だってできていない。
頭の中はぐちゃぐちゃで、譜面の上に並ぶ黒い玉が全部、あの渡り廊下で赤くなっていた女の子の顔に見えた。
松下さんの綺麗なトランペットの音が頭をよぎり、律の抱える痛みがよぎり、最後に「幼馴染」でしかない私の惨めさが残る。

何ひとつ、手に入らない。
トランペットの音も、律の本当の気持ちも、何ひとつ。

「集中って……お前、唇めっちゃ腫れてんじゃん」

律の指先が、私の前髪に触れそうなくらい近くまで伸びてきて、ピタリと止まった。