あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


ギィ……と、古びた扉が重い音を立てて開いたのは、どれくらい経ってからだっただろう。

「……なんだ、ここにいたのか」

聞き慣れた声。
振り向かなくても、それが誰だか分かった。

律が、いつもの足取りで静かに教室に入ってくる。
けれど、その靴音はほんのわずかに右足だけ引きずるような、重い音が混ざっていた。

「部活が終わって探したんだぞ。って……あおば?」

返事をしなきゃいけないのに、声が出ない。
私はトランペットを構えた姿勢のまま、かたくなに視線を自分の膝元へと落とした。

いま律の顔を見たら、あの返事を聞いてしまいそうで。
律の目に映る自分が、惨めで泣きそうな顔をしているのがバレてしまいそうで。

私はどうしても、律の目を見ることができなかった。

静まり返った旧校舎の部屋に、ただふたりの不揃いな息遣いだけが、冷たく響いていた。
静寂が、ふたりの間にじわりと広がっていく。

カサ、と律が踏み出した一歩の音。
いつもなら気にも留めないその足音が、今の私には酷く重く、痛々しく聞こえた。

「あおば?」

もう一度、律が私の名前を呼んだ。
心配そうに覗き込んでくる気配がするけれど、私はトランペットの銀色の管を指先で強く握りしめたまま、うつむき続けた。