あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


何気なく、ファインダーを覗いてシャッターを押す。

カシャーッ――。

「……あ」

乾いた音が響くと、律が驚いたように振り返った。
怒るでもなく、茶化すでもなく、律は一瞬だけ呆けたような顔をしたあと、私の手からカメラをすっと取り上げた。

そして言葉もなく、ただレンズをこちらに向け、ファインダーを覗き込む。

カシャーッ――。

風の音に混ざって、もう一度プラスチックの音が弾けた。

「……なんで撮るのよ」
「……別に。お前が撮ったから」

律はぽつりと呟くと、それ以上は何も言わず、カメラの歯車をジリジリと指先で回した。
ファインダー越しに目が合っただけの、ほんの一瞬。
そこには言葉にならない慰めと、二人だけの静かな温度が残されていた。

自分たちの足元ばかりを見て苦しんでいた私たちが、こうして遠くを眺め、風を浴びて、互いにシャッターを切り合う。
ただそれだけのことが、硬く強ばっていた私の胸の奥を柔らかく解きほぐしていく。

ここに来たからといって、現実の何かが解決したわけじゃない。
来週からは、夏休みが始まる。
強化練習に、メンバーオーディションが私を待っている。
律の足は何かを抱えたままだし、私のトランペットだってすぐには上手く吹けない。

けれど――この広い空の下で二人、同じ風に吹かれたこと。
あのシャッター音が響いた一瞬の記憶があれば、私はもう少しだけ、あの息苦しい現実に向き合っていける気がした。