律はもう一機、紙飛行機を折り始めた。
「よっしゃ。お前も、遠くへ行ってこい」
二機目の紙飛行機が夕闇の彼方へ溶け込んでいくのを見届けると、律は私の手元から、カメラをひょいと奪い返した。
カシャーッ――。
そして、私の横顔を不意に撮る。
「……っ! もう、勝手に撮らないでよ!」
突然の白い光と甲高い音に驚いて抗議すると、律はファインダー越しにイタズラっぽく目を細めた。
「お互い様だろ。おまえだって勝手に撮ったんだから。『風に乗る紙飛行機と、あほ面したあおば』」
「勝手にタイトル付けないで! しかもあほ面なんかじゃないし!」
「嘘つけ。口をぽかーんと開けて見てたじゃん」
「律っ!!」
私が口の端を引きつらせて律を睨みつけると、律はご満悦そうに「へいへい」と聞き流しながら、カメラのギザギザを指先でジリジリと回した。
プラスチックの乾いた巻き上げ音が、夕映えの静かな教室に寂しく響く。
私は誤魔化すように、もう一度窓の外を見下ろした。
あんなに高々と舞い上がっていた二機の紙飛行機は、もうどこにも見当たらない。
あの紙飛行機は、一体どこに落ちたんだろう。
夕暮れの風が止まれば、どうせただの「不器用におられた、赤点だらけの惨めなテスト用紙」に戻って、どこかの路上で泥に塗れるだけだ。
……家に帰れば、律にはおじさんからの突きつけられた厳しい現実と、サッカーを奪われるカウントダウンが待っている。
私にも、コンクールから落とされる恐怖と、どんどん自分が嫌いになっていく減点ばかりの日常が待っている。
明日はやってくるし、来週にはまた現実の通知表が届く。
私たちは大人の引いた綺麗なレールの上を歩くこともできず、誇れるような器用さも持ち合わせていない。
だけど。
ファインダー越しに触れた律のどこか震えるような熱量と、「今この瞬間だけは世界から二人で逃げ出している」という密やかな連帯感が、不安で冷え切っていた私の胸の奥を、じわりと温めていた。
ただのサボり。
ただの逃避。
大人から見れば不真面目で無意味な時間かもしれない。
でも、今の私たちには、この夕風とカメラのシャッター音だけが、息をするために必要なすべてだった。
