8月23日、九州大会当日。
会場である福岡の大ホールは、息が詰まるほどの熱気と異様な静寂に包まれていた。
舞台袖の影で、私はトランペットをぎゅっと握りしめていた。
手汗で真鍮の表面がぬめり、冷たくなった指先がかすかに震える。
周囲からは、各県の代表校たちの洗練されたウォーミングアップの音色が聞こえてくる。
完璧で、寸分の狂いもない綺麗な音。
昔の私なら、その「正解の音色」に圧倒されて「私なんかがここにいていいのかな」と自分を責めていたかもしれない。
周りと同じようにまっすぐ歩けなかった自分の遠回りを、惨めに思っていたかもしれない。
でも、今の私にはもう、そんな迷いは微塵もなかった。
『立ち止まった場所にしか咲かない花がある』
あの日、駄菓子屋のおじさんが残してくれた言葉が、胸の奥で温かく灯っていた。
あの止まっていた時間、サボっていた時間は、間違いなんかじゃなかった。
そこを通ったからこそ手に入れた宝物があるんだって、今の私は知っている。
振り返れば、私の青春はいつだって葛藤と遠回りの連続だった。
