翌朝。
私は駄菓子屋のおじさんからもらった霧島神宮のお守りを抱え、バスに揺られて九州大会の開催地、福岡へと向かった。
鹿児島から福岡までは、高速バスで3時間半ほど。
バスの中では、楽しく会話する人や、楽譜を見て最終確認をする人、それぞれの過ごし方をしていた。
私は……楽譜を見たり、窓の外の流れる景色を見たり。
どうしても緊張してしまって、ソワソワしていた。
長旅を経て到着した福岡のホテル。
夕食後の自由時間、私は明日の本番に向けた嫌な緊張感を払うように、ホテルの屋上庭園へと足を向かった。
夜風が火照った頬を掠めていく。
見下ろす福岡の街の夜景は、まるで遠い星の集まりみたいに瞬いていた。
「……やっぱり、ここにいた」
静かな声に振り返ると、シャワーを終わらせた私服姿の神崎先輩が立っていた。
まだ少し濡れている髪が夜風に揺れている。
先輩は自販機で買った冷たい炭酸飲料を私に差し出すと、手すりにそっと寄りかかった。
「白波さん。明日、いよいよだね」
「はい……緊張して、心臓が出てきそうです」
「ハハハ、大丈夫。白波さんの音は、もう迷っていないよ」
先輩は穏やかに微笑んでいた。
だけど、その横顔には、いつも完璧で余裕のある先輩が見せたことがないような、どこか切なくて寂しげな影が差していた。
