九州大会への出発を明日に控えたこの日、私は律に呼ばれて、久しぶりに律の家へと向かっていた。
律の家の門をくぐると、ちょうど玄関のドアが開く音がした。
出てきたのは、律のお父さんだった。
「成績がこれ以上落ちたら、サッカーを辞めて勉強に集中しろ」と律を厳しく縛り付け、怪我をした律に対しても冷ややかだったおじさん。
だけど、目の前に立つおじさんの表情は、以前のような棘が削ぎ落とされ、どこか深く穏やかなものに変わっていた。
「……あおばちゃんか。いらっしゃい」
深く頭を下げる私に、おじさんは少し気まずそうに目線を泳がせると、ゆっくりと私に向き直った。
「あおばちゃん……君にはまだきちんと謝っていなかったよね」
「……え?」
「これまで、君たちには色々と酷いことを言ったり、縛り付けるような真似をしてすまなかった。……律の人生は律のもの。私がきつく決めつけるものではなかったのに」
「………」
「それにほら、私自身の人生だって褒められるものじゃないのに、息子に対してちょっと厳しすぎたね。全部私のエゴだった。申し訳ない」
私に向かって、おじさんが頭を下げてきた。
「おじさん……そんな、頭を下げないでください」
「あいつが泥まみれになりながらリハビリに耐えて、またグラウンドへ走っていく姿を見ていてね……。そういえば、昔自分にもそういう時があったよなって思い出したんだよ。それで、ああ、間違っていたのは私だったって、ようやく気づいたんだ」
「おじさん……」
「律を支えてくれたのは、いつだって君だった。本当に、ありがとう」
駄菓子屋のおじさんが命をかけて残してくれた光は、こんなところにも確かに届いていたんだ。
あの日、駄菓子屋のおじさんに出会えて、私たちの未来が変わった。
「親父、立ち話が長いよ。もういいだろ。さっさと上がらせろ」
