狂乱する女子たちの歓声を完全に無視して、律がふっと視線をこちらに向けた。
大勢のギャラリーの中で、律の黒い瞳が、正確に私だけを射抜く。
律はチームメイトの手をパッと振り払うと、汗ばんだ首筋をユニフォームの襟元でぐっと拭った。
そして、群がる他の女子たちには一瞥も与えず、真っ直ぐに私の方へと歩いてきている。
「え……東郷くん、こっち来る!?」
「え?うそ!?本当だ!こっち来てる!」
ざわつく女子たちの隙間を割るようにして、律は防球ネット越しに私の目の前で足を止めた。
「……あおば」
大勢の視線が集中する中で、律は低い声で私を呼んだ。
「なにボサッと突っ立ってんだよ。……撮んねえの?」
「え……あ、うんっ!」
「シャッターチャンス、いっぱいあっただろ」
そう言って、律が私だけにニカっと笑う。
心臓が跳ね上がるのを感じながら、私は慌てて使い捨てカメラを構えた。
周りの女子たちが「えっ、あの子だけ名前で呼ばれてる……」「あのカメラ……」「てゆーか、あの先輩、東郷先輩の幼馴染だよね」とヒソヒソ囁き合う声が聞こえる。
律のバカ……。
みんな見てるのに……。
だけど、胸の中の嫉妬は、一瞬にして甘い愛おしさへと変わっていった。
ファインダーの枠の中に、律の姿を捉える。
額に汗を光らせ、肩を荒く上下させながらも、どこか誇らしげに、私だけにしか見せない少し意地悪で暖かな瞳。
