あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


ある日、私と律のもとに、駄菓子屋のおじさんの息子さんから一通の小包が届いた。
律を私の家に呼び出し、二人で小包を開けてみると、中には手紙と二つのお守りが入っていた。

夕焼けの茜色が窓から斜めに差し込み、私の部屋のカーペットと、手のひらの上にあるふたつの朱色の「霧島神宮」のお守りを優しく染めていく。

ざらりとした刺繍の感触に指先で触れると、あの日、畳の部屋で話を聞いてくれたおじさんの温もりや、あの店に漂っていたタバコと飴玉が混ざった懐かしい匂いが、鮮明に胸の奥へ押し寄せてきた。

小包の中に添えられていた、息子さんからの白い便箋に目を落とす。

『あおばちゃん、律くんへ。
丁寧なお手紙とお供え物をありがとうございました。告別式に来られなかったことを気になさらないでくださいね。二人がそれぞれの場所で一生懸命に前を向いていることこそが、親父にとって一番の供養になります。

先日、親父の小さな机の引き出しを整理していたら、この二つの「霧島神宮」のお守りが出てきました。一緒にメモが残されていて、次にまた遊びに来た時に渡すつもりだったようです。

メモの最後には、こう書かれていました。
「あおばと律へ。立ち止まった場所にしか咲かない花がある。焦らんでええ。遠回りした奴が、誰よりも前に進めるんだ」

親父は意識がなくなる直前まで、二人のことを自慢の孫みたいに話していました。どうか親父の想いを胸に、自分たちの信じる道を進んでください』

便箋の文字が、ポロポロとこぼれ落ちる涙で滲んでいく。

直接お別れすら言えなかった後悔。
恩返しすらできなかった申し訳なさ。
だけど、あまりにも温かい言葉に、胸の奥がぎゅっと締め付けられて息ができなかった。

「……おじさん、最後くらい……もっと頼らせてくれよ……」

隣に座っていた律の声が、かすかに震えていた。
ぽた、ぽた、とお守りの上に落ちていく、大きな涙の粒。
律は乱暴に袖で目を覆い、唇を噛み締めながら、溢れる涙を隠すように肩を激しく揺らしていた。
いつもは強がりばかり言っている律が、子供みたいにしゃくりあげている。

奇跡なんて起きなかった。
奇跡の復活も、劇的な再会もなかった。
けれど、あの小さな駄菓子屋で過ごした時間は、そしておじさんが私たちのために祈ってくれた想いは、消えることなく私たちの心に残っている。