ハッと我に返った律は、掴んでいた手を離すと、バッと明後日の方向を向いた。
「ほら、もっとこっち来い!濡れるだろ!」
律の折りたたみ傘は二人で入るにはあきらかに狭くて、歩くたびに律の肩と私の肩が嫌でも触れ合う。
律は自分が濡れるのも構わず、傘をあからさまに私の方へ傾けていた。
おかげで律の右肩は、土砂降りの雨でびしょ濡れだ。
「律、傘傾いてるよ……律が濡れちゃう」
「うるせえな!これでいいんだよ!」
触れ合う肩の熱さと、黒い傘の狭い空間に充満する律の匂い。
雨音が二人を世界から切り離すみたいに響いていた。
雨の匂いと共に伝わってくる律の優しさに、私の胸はキュッと甘く締め付けられた。
大会まで、あとわずか。
おじさんの残した光、神崎先輩から教わった表現の翼、そして一つの傘の下で感じた律の不器用な情熱。
私達の夏はさらに熱く、深く加速していく。
