黒い傘の影から伝わる律の泥臭い熱気と、シトラスの香りが漂う神崎先輩の傘。
二人の力強い手首の体温に挟まれ、私の心臓は破裂しそうなくらい跳ね上がった。
だけど、律は掴んだ私の手を絶対に放さなかった。
そして、雨音を突き破るような、低く地響きのような声で言い放つ。
「……先輩、手、放してください。こいつは俺が連れて帰るんで」
「断るよ」
神崎先輩も一歩も引かず、瞳に本気の熱を宿して律を見つめ返す。
「君が白波さんにとって特別なのは知ってるよ。でも、彼女を大切にしたいと思っているのは君だけじゃない。……僕は、君に譲るつもりはないよ」
大人びていて、いつも余裕の表情だった神崎先輩が見せた、初めての真剣な眼差し。
「……ふざけんなよ」
