あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


​グラウンドを吹き抜ける、8月の熱い風。
律の足は疲労骨折の痛みがようやく引き、重々しい松葉杖が完全に取れていた。
まだ本格的なプレイはお預けだけど、芝生の上を少しずつ、確かめるように走る律の姿があった。

​汗ばんだ首筋。
リハビリの不自由さに時折歯を食いしばりながらも、その黒い瞳には、おじさんの命の重さを背負った力強い熱が宿っている感じがした。

​音楽室の窓辺からトランペットを抱えてそれを見つめていると、ふと律が顔を上げた。
視線が、真っ直ぐに交差する。
​律はバツの悪そうにパッと目を逸らすと、首にかけたタオルで汗を拭いながら、ポケットから何かを取り出して弄んだ。
使い捨てカメラだ。
あと、数枚残っていたはず。
松葉杖をついていた時は私が預かっていたけど、今は律のもとに返してあげた。
律はカメラを大切そうに眺めると、急にレンズをこちら側に向けてファインダーを覗き込んだ。

だけどすぐに目を離して、カメラ越しではなく、直接私を見上げる。

「ダメだっ!遠くて何も見えないっ!」

4階の音楽室の窓から覗く私に向かって、律が大声で言って歯を見せて笑う。

ああやって、律がニカっと大きく笑ったのはいつぶりだろう。
久しぶりに見た無邪気な笑顔に、私は思わず目を泳がせてしまう。
距離が遠くてよかった……。
こんな赤くなった顔、律には見せられない。