「死んでる」
関が、平の首元から、指を離す。
「ううう嘘でしょ」
「まじかよっ」
「いや、まだ分かんねえよ。おい心臓マッサージと人工呼吸」
「友枝、俺がやる」
関が、体重を乗せ、手の付け根を。
平の胸の真ん中に当てる。
「一、二、三、
死んでいた。
「駄目だ、無理だ。もうよせ」
友枝が、関を、平から離す。
「ご、ごっつぁんです」
関が肩を落とし、肩で息をする。
「ご臨終ですか」
「そそそそんな」
岡上と羽田も暗い気持ちになったのか。
肩をすぼめる。
「なあ、これってよ、」
友枝が重い空気を振動させる。
「密室殺人って、やつじゃないのか」
「おい、それって、俺たちの中に犯人がいるってことかよ」
「そそそそんな」
震える羽田の脇を通り、友枝が窓の方に。
「扉には鍵が掛かっていた。そうすると、出口は他には、この窓だ。窓自体は大きいが、ガラスは嵌められていない。十字の格子があって、格子と窓の間は、」
友枝が、窓に身をはめる。
「俺くらいなら、なんとか通り抜けられる。だが、下は断崖絶壁だ。目測で十メートルはないが、まあ無事では済まないだろうな」
「ああああの、僕、犯人。分かったかも」
「まじかよっ、羽田」
「キキキ君だ。君が、はん」
「あんっだと。てめえ」
「ににんだ。とー。う。おもー。う」
「はっきり言えば言いだろっ」
「まあまあ、岡上。おい羽田。そう言うからには、何か考えがあるんだろ。聞くよ」
「うう。うん。ひ、昼間。昨日の昼間さ。みんなで浜辺で遊んだだろ」
岡上が小さく頷く。
「そそのとき、岡上君が、棒高跳びのポールを持ってきていただろ。岡上君は、それを使って、」
「ばっかかっ、馬鹿馬鹿。無理だっつーの羽田。お前はアホか。なんだ、窓から、棒高跳びのポール使って、ケンケンパッて、しながら、俺の部屋まで帰ってきたって言うのか? クルクルパーか。無理だ無理無理。まず一つ。高さが足りねえ。あのポールは五メートルしかねえ、」
「だだだだから、二つあれば、」
「しなるんだよ。しなるのポールは。しなって、あらぬ方向に飛んでいくだろ。あれか? まさか、そうやって、俺の部屋に帰ってきたって言うんじゃないよな。だったら、落ちてるはずだろ、崖の下にポール」
「ポールに紐を結んでおけば、回収、」
「回収して、どこに隠すんだよ。部屋になんもねえんだからすぐにバレんだろうが。あっ。ちょっと待て。分かったぞ。犯人はお前だ、羽田っ」
「ななななんで、急に」
「手を挙げろ。今すぐだ」
岡上が、拳銃を模した手で、羽田を指す。
「こ、こう?」
「違う違う。手を耳の横にするんじゃなくて。あれだ、ラジオ体操第一。腕を前から上に挙げて、大きく背伸びの運動から。はい。一、二、三ストップ」
羽田は、腕を伸ばしたまま、真横に。
イエスキリストのように。
「磔刑。高っけえよなあ。お前背え。何メートルだっけ」
「に、二メートル二センチ? いや、三だったかも」
「両腕を広げた長さは身長と大体同じだ。お前はその長身。そしてその長腕で。窓から窓へと移動して、平を殺した後の密室を作り上げたんじゃないのか?」
「むむむ無理無理無理。無理だたって。部屋の窓と窓とは三メートルはあるでしょ。届かないって」
「んなの飛べば良いじゃねえか。バレー部だろ。ジャンプは得意だろ」
「ばバレー競技関係ないよ。腕の力で飛ぶなんてできないよ」
「おいおい。さっきから聞いてたが、落ち着けよ二人とも」
「友枝、お前がやったんじゃないのか?」
「岡上、どうした? なぜ俺の方に急に矛先が?」
「いや、お前も窓の格子から抜けだせはするわけだ。お前確か受け身得意だろ。窓から飛び降りて、受け身を取って、」
「いやいやいや。急に。無理だろ。どんなに受け身でも、背中とかに傷がつくだろ。見てみろよ俺の体。傷ひとつないだろ」
友枝が背中を見せ、全身を見せ。
体に傷がないことを示す。
「この身ひとつでそんなことできるわけないだろ。っていうか、そもそもよ。俺ら素人が探偵気取りで事件を解決しよう。なんてのが無駄だろ。いるじゃねえか。探偵がよ」
「せせせ」
「関か」
「そう。関。お前、犯人が誰か分かっているんだろ?」
「ん? ああ、分かってる」
眠っている平の横で、蹲踞している関は。
手刀を十字に切った。
「ちょっと、待ってくれ」
関は床に這い、右手を箒に、左手を塵取りにし、ほこりを集める。
箒の右の手を、右少し前に伸ばす。
塵取りの左の手を、胸の方に持っていく。
不知火型でない方の方。
雲龍型。
ほこりがこんもり盛った左手を、塩を撒くように、空中へ。
関は、息を吸い込み。
「はっくしゅんっ」
くしゃみをした。
「来るぞ、どすこい探偵が」
「くしゃみの関が」
「ははは、ぼぼ僕は初めてだ」
パンっと関は柏手を打つ。
「おお、友枝、岡上久しぶりだな。ちゃんちゃんこちゃんちゃん焼きちゃんこ鍋事件の時以来か? うおおっ、こんなところに死体が。なるほど首を紐状のもので締められている。ふむ。なるほど。死体はここにあったんだろ? 友枝」
「ああ」
「ふむ。ドアには、鍵が掛かっていた。そうだな岡上」
「間違いねえ」
ドアの向こう廊下側に、関は一度出て。
すぐにまた、部屋の中に戻ってきた。
「みんなは。この階で。別々の場所で寝ていたのか?」
「そそそそう」
「おや、初めましてだね。私はくしゃみ。関がお世話になっているようだね」
「ははは羽田です。初めまして。ほほ本当にいるんだ」
「なるほど。君が羽田君か。ふむバレー部か」
「すすすすごいどうして分かったの?」
「馬鹿か羽田、分かんだろそんなの。どう見たってバレー部かバスケ部かだ。そして、バスケ部みたいなイケてる部活は俺らのことなんか相手にしねえ」
「かか悲しい推理」
「まあ、単純すぎる推理だね。さて。部屋割りはどうだったの。みんなはこの階の五部屋に。どう泊まったの?」
「ああ、さっき。お前も外出て見てたと思うが。左に階段あったろ。そこから、俺、羽田、友枝。そしてここ、平。一番奥が関、お前が寝てた」
「なるほど、岡上君ありがとう。さて、もう一つの出口はあの窓か。どれ」
関、いや、くしゃみは、窓に自分の体を嵌める。
ちょうどウエストが、お腹の肉がはみ出す程だった。
「なるほど、金属製の格子か。しっかりとしている。うん。なんだ、簡単な事件じゃないか」
「くしゃみ。お前、分かったのか犯人が?」
「教えてくれっ」
「わわわ」
驚く三人の前で、くしゃみは四股を踏む。
脚は垂直高くまで上がり。
床に振り下ろされる。
「犯人はこの中にいるっ」
くしゃみは、強く言い切り、反対の脚で。
また四股を踏み、下ろし。
「犯人は私だっ」
そう軍配をあげた。
沈黙を破ったのは友枝だった。
「はあ? なんだ一人相撲か?」
「おい、ふざけんなよ、くしゃみ」
「どどどどういう?」
「私が犯人だ。そう言ったのだ」
くしゃみは何食わぬ顔。
「というより、分からないのかね。君たち。犯人が誰かなんて、一目瞭然じゃないか」
クエスチョンな顔の三人。
「犯人は今も、凶器と、そして、この部屋からの脱出に使った道具を持っている。いや。身につけている。と言った方が良いか」
くしゃみは三人を。
普通の水着を着ている。
海パン一丁の三人に目をやって。
自分が履いている、まわしの位置を直した。
「死んでいる平の首筋。これは、手で絞められたものでなく、紐状のもので絞められたものだ。君たちが履いている海パンのゴム紐では、太さが足りない。これは、まわしを捩り、紐状にして絞めたものだ。さらに、犯人。つまり私は、平の首を絞めた後、この部屋から脱出するため、まわしを格子に掛け、振り子のように、私の部屋の窓へと壁伝いに歩いて移動したのだ」
「いや、お前の体じゃ、窓枠に、」
「このお腹は筋肉さ。骨格自体は、友枝とそう変わりはしないよ。猫とかうさぎとかハムスターが自分の体の幅より狭いところを通り抜けられるようなものさ」
「待てよっ、まわしの回収はどうすんのさ?」
「簡単だろ。まわしをぐるっとひとまわし。まわしで大きな輪っかを作るんだ。自分の部屋に着いたら、まわしを回して、結び目を手元に持っていく。そして、ほどけばいい」
「そそそそんな、まわしって」
「まわしってのは意外と長いのさ。ほら」
くしゃみは、締めていた自分のまわしを外し、長さを見せる。
「このまわしは、ざっと八メートルある。輪っかを作っても。窓と窓との距離三メートル、それより少し長いかな。でも、充分に足りる長さがあるのさ。この通り。分かっただろ。海パン三人衆の君たちには、この犯行は不可能。そして、私には、まわし。まわしがある。故に私が犯人だ」
「どどどどうして?」
「どうして? さあね。私にも分からないよ。羽田君。あとは、あいつに聞いてくれ。れ。れ。へ。へ。へ。へっくしゅん」
くしゃみは、くしゃみをした。
人格が、関に戻る。
「僕がやりました」
「どうしてだ、関。なんでお前が」
「ふざっけんなよ、どういうことか説明しろっ」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよみんな」
関は、項垂れまま。
ゆっくり首をあげた。
「ちょっとだけ、待ってくれるか」
「いや、待てねえよ」
「そうだっ、説明しろっ」
「いや、そういうことじゃなくて、」
「どどどどういう?」
「いや。あの。その、」
関は、躊躇い言った、
「今、フルチンなので。まわしを締めさせて。ください」
まわしを締めた関は、ぽつりと言った。
「人のふんどしで、相撲をとりたくなかったんだ」
三人は黙って聞いている。
「どすこい探偵だの。くしゃみの関だの。西の横綱探偵だの。そういった評価が僕にされる。けれど、それは、全部僕じゃない僕。俺じゃない俺。くしゃみだ。僕の手柄じゃない。ごっつぁんゴール。八百長だ。もう。いやだったんだ、人のふんどしで相撲をとるのが。あいつさえいなければ。僕は僕だけ。俺は俺だけのものだ。そうだ。あいつを。くしゃみを消そう。あいつが手にしたもの。その全てを台無しにしてやる。怒り。妬み。俺の心は憤怒し。そう思った」
「だだだっでも、平君を殺すことは、」
「恋人。同士だったんだ」
「はっ?」
「はあっ?」
「え、ええっ!」
「無論。平が好きだったのは、くそっ。俺じゃない。俺じゃない。くしゃみだ。もし、くしゃみが死んでも。俺が死んでも。あいつは、くしゃみのことを心に思う。くしゃみが手に入れたものが、この世界に残ることが許せなかった。だから。だから、殺した。あいつの手に渡るくらいなら」
「お前の一人相撲に、他人を巻き込むなよ」
「くだらねっ。とんだ肩透かしだ」
「なななにも、そんな自分を、うっちゃらなくても」
「勇み足だったとは思う。けれど、自分が自分でないような。そんな死に体は、ごめんだよ。探偵になれない僕は、犯人になるしかないじゃないか。番狂せを起こす。それが関の山。金星なんて、とてもあげられない。ふふ。僕は黒星だけれど、あいつにも土をつけられたんだ。満足さ。さあ、もう。待ったなし。土俵際。千秋楽だ。物言いはしない。三役揃い踏み。僕を、」
関は、蹲踞し、両腕を広げる。
「警察に突き出してくれ」
パトカーの中。
関脇に警察二人。
その後ろ姿を、ただ、呆然と見ていた。
のこった。のこった。のこったは三人。
関が、平の首元から、指を離す。
「ううう嘘でしょ」
「まじかよっ」
「いや、まだ分かんねえよ。おい心臓マッサージと人工呼吸」
「友枝、俺がやる」
関が、体重を乗せ、手の付け根を。
平の胸の真ん中に当てる。
「一、二、三、
死んでいた。
「駄目だ、無理だ。もうよせ」
友枝が、関を、平から離す。
「ご、ごっつぁんです」
関が肩を落とし、肩で息をする。
「ご臨終ですか」
「そそそそんな」
岡上と羽田も暗い気持ちになったのか。
肩をすぼめる。
「なあ、これってよ、」
友枝が重い空気を振動させる。
「密室殺人って、やつじゃないのか」
「おい、それって、俺たちの中に犯人がいるってことかよ」
「そそそそんな」
震える羽田の脇を通り、友枝が窓の方に。
「扉には鍵が掛かっていた。そうすると、出口は他には、この窓だ。窓自体は大きいが、ガラスは嵌められていない。十字の格子があって、格子と窓の間は、」
友枝が、窓に身をはめる。
「俺くらいなら、なんとか通り抜けられる。だが、下は断崖絶壁だ。目測で十メートルはないが、まあ無事では済まないだろうな」
「ああああの、僕、犯人。分かったかも」
「まじかよっ、羽田」
「キキキ君だ。君が、はん」
「あんっだと。てめえ」
「ににんだ。とー。う。おもー。う」
「はっきり言えば言いだろっ」
「まあまあ、岡上。おい羽田。そう言うからには、何か考えがあるんだろ。聞くよ」
「うう。うん。ひ、昼間。昨日の昼間さ。みんなで浜辺で遊んだだろ」
岡上が小さく頷く。
「そそのとき、岡上君が、棒高跳びのポールを持ってきていただろ。岡上君は、それを使って、」
「ばっかかっ、馬鹿馬鹿。無理だっつーの羽田。お前はアホか。なんだ、窓から、棒高跳びのポール使って、ケンケンパッて、しながら、俺の部屋まで帰ってきたって言うのか? クルクルパーか。無理だ無理無理。まず一つ。高さが足りねえ。あのポールは五メートルしかねえ、」
「だだだだから、二つあれば、」
「しなるんだよ。しなるのポールは。しなって、あらぬ方向に飛んでいくだろ。あれか? まさか、そうやって、俺の部屋に帰ってきたって言うんじゃないよな。だったら、落ちてるはずだろ、崖の下にポール」
「ポールに紐を結んでおけば、回収、」
「回収して、どこに隠すんだよ。部屋になんもねえんだからすぐにバレんだろうが。あっ。ちょっと待て。分かったぞ。犯人はお前だ、羽田っ」
「ななななんで、急に」
「手を挙げろ。今すぐだ」
岡上が、拳銃を模した手で、羽田を指す。
「こ、こう?」
「違う違う。手を耳の横にするんじゃなくて。あれだ、ラジオ体操第一。腕を前から上に挙げて、大きく背伸びの運動から。はい。一、二、三ストップ」
羽田は、腕を伸ばしたまま、真横に。
イエスキリストのように。
「磔刑。高っけえよなあ。お前背え。何メートルだっけ」
「に、二メートル二センチ? いや、三だったかも」
「両腕を広げた長さは身長と大体同じだ。お前はその長身。そしてその長腕で。窓から窓へと移動して、平を殺した後の密室を作り上げたんじゃないのか?」
「むむむ無理無理無理。無理だたって。部屋の窓と窓とは三メートルはあるでしょ。届かないって」
「んなの飛べば良いじゃねえか。バレー部だろ。ジャンプは得意だろ」
「ばバレー競技関係ないよ。腕の力で飛ぶなんてできないよ」
「おいおい。さっきから聞いてたが、落ち着けよ二人とも」
「友枝、お前がやったんじゃないのか?」
「岡上、どうした? なぜ俺の方に急に矛先が?」
「いや、お前も窓の格子から抜けだせはするわけだ。お前確か受け身得意だろ。窓から飛び降りて、受け身を取って、」
「いやいやいや。急に。無理だろ。どんなに受け身でも、背中とかに傷がつくだろ。見てみろよ俺の体。傷ひとつないだろ」
友枝が背中を見せ、全身を見せ。
体に傷がないことを示す。
「この身ひとつでそんなことできるわけないだろ。っていうか、そもそもよ。俺ら素人が探偵気取りで事件を解決しよう。なんてのが無駄だろ。いるじゃねえか。探偵がよ」
「せせせ」
「関か」
「そう。関。お前、犯人が誰か分かっているんだろ?」
「ん? ああ、分かってる」
眠っている平の横で、蹲踞している関は。
手刀を十字に切った。
「ちょっと、待ってくれ」
関は床に這い、右手を箒に、左手を塵取りにし、ほこりを集める。
箒の右の手を、右少し前に伸ばす。
塵取りの左の手を、胸の方に持っていく。
不知火型でない方の方。
雲龍型。
ほこりがこんもり盛った左手を、塩を撒くように、空中へ。
関は、息を吸い込み。
「はっくしゅんっ」
くしゃみをした。
「来るぞ、どすこい探偵が」
「くしゃみの関が」
「ははは、ぼぼ僕は初めてだ」
パンっと関は柏手を打つ。
「おお、友枝、岡上久しぶりだな。ちゃんちゃんこちゃんちゃん焼きちゃんこ鍋事件の時以来か? うおおっ、こんなところに死体が。なるほど首を紐状のもので締められている。ふむ。なるほど。死体はここにあったんだろ? 友枝」
「ああ」
「ふむ。ドアには、鍵が掛かっていた。そうだな岡上」
「間違いねえ」
ドアの向こう廊下側に、関は一度出て。
すぐにまた、部屋の中に戻ってきた。
「みんなは。この階で。別々の場所で寝ていたのか?」
「そそそそう」
「おや、初めましてだね。私はくしゃみ。関がお世話になっているようだね」
「ははは羽田です。初めまして。ほほ本当にいるんだ」
「なるほど。君が羽田君か。ふむバレー部か」
「すすすすごいどうして分かったの?」
「馬鹿か羽田、分かんだろそんなの。どう見たってバレー部かバスケ部かだ。そして、バスケ部みたいなイケてる部活は俺らのことなんか相手にしねえ」
「かか悲しい推理」
「まあ、単純すぎる推理だね。さて。部屋割りはどうだったの。みんなはこの階の五部屋に。どう泊まったの?」
「ああ、さっき。お前も外出て見てたと思うが。左に階段あったろ。そこから、俺、羽田、友枝。そしてここ、平。一番奥が関、お前が寝てた」
「なるほど、岡上君ありがとう。さて、もう一つの出口はあの窓か。どれ」
関、いや、くしゃみは、窓に自分の体を嵌める。
ちょうどウエストが、お腹の肉がはみ出す程だった。
「なるほど、金属製の格子か。しっかりとしている。うん。なんだ、簡単な事件じゃないか」
「くしゃみ。お前、分かったのか犯人が?」
「教えてくれっ」
「わわわ」
驚く三人の前で、くしゃみは四股を踏む。
脚は垂直高くまで上がり。
床に振り下ろされる。
「犯人はこの中にいるっ」
くしゃみは、強く言い切り、反対の脚で。
また四股を踏み、下ろし。
「犯人は私だっ」
そう軍配をあげた。
沈黙を破ったのは友枝だった。
「はあ? なんだ一人相撲か?」
「おい、ふざけんなよ、くしゃみ」
「どどどどういう?」
「私が犯人だ。そう言ったのだ」
くしゃみは何食わぬ顔。
「というより、分からないのかね。君たち。犯人が誰かなんて、一目瞭然じゃないか」
クエスチョンな顔の三人。
「犯人は今も、凶器と、そして、この部屋からの脱出に使った道具を持っている。いや。身につけている。と言った方が良いか」
くしゃみは三人を。
普通の水着を着ている。
海パン一丁の三人に目をやって。
自分が履いている、まわしの位置を直した。
「死んでいる平の首筋。これは、手で絞められたものでなく、紐状のもので絞められたものだ。君たちが履いている海パンのゴム紐では、太さが足りない。これは、まわしを捩り、紐状にして絞めたものだ。さらに、犯人。つまり私は、平の首を絞めた後、この部屋から脱出するため、まわしを格子に掛け、振り子のように、私の部屋の窓へと壁伝いに歩いて移動したのだ」
「いや、お前の体じゃ、窓枠に、」
「このお腹は筋肉さ。骨格自体は、友枝とそう変わりはしないよ。猫とかうさぎとかハムスターが自分の体の幅より狭いところを通り抜けられるようなものさ」
「待てよっ、まわしの回収はどうすんのさ?」
「簡単だろ。まわしをぐるっとひとまわし。まわしで大きな輪っかを作るんだ。自分の部屋に着いたら、まわしを回して、結び目を手元に持っていく。そして、ほどけばいい」
「そそそそんな、まわしって」
「まわしってのは意外と長いのさ。ほら」
くしゃみは、締めていた自分のまわしを外し、長さを見せる。
「このまわしは、ざっと八メートルある。輪っかを作っても。窓と窓との距離三メートル、それより少し長いかな。でも、充分に足りる長さがあるのさ。この通り。分かっただろ。海パン三人衆の君たちには、この犯行は不可能。そして、私には、まわし。まわしがある。故に私が犯人だ」
「どどどどうして?」
「どうして? さあね。私にも分からないよ。羽田君。あとは、あいつに聞いてくれ。れ。れ。へ。へ。へ。へっくしゅん」
くしゃみは、くしゃみをした。
人格が、関に戻る。
「僕がやりました」
「どうしてだ、関。なんでお前が」
「ふざっけんなよ、どういうことか説明しろっ」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよみんな」
関は、項垂れまま。
ゆっくり首をあげた。
「ちょっとだけ、待ってくれるか」
「いや、待てねえよ」
「そうだっ、説明しろっ」
「いや、そういうことじゃなくて、」
「どどどどういう?」
「いや。あの。その、」
関は、躊躇い言った、
「今、フルチンなので。まわしを締めさせて。ください」
まわしを締めた関は、ぽつりと言った。
「人のふんどしで、相撲をとりたくなかったんだ」
三人は黙って聞いている。
「どすこい探偵だの。くしゃみの関だの。西の横綱探偵だの。そういった評価が僕にされる。けれど、それは、全部僕じゃない僕。俺じゃない俺。くしゃみだ。僕の手柄じゃない。ごっつぁんゴール。八百長だ。もう。いやだったんだ、人のふんどしで相撲をとるのが。あいつさえいなければ。僕は僕だけ。俺は俺だけのものだ。そうだ。あいつを。くしゃみを消そう。あいつが手にしたもの。その全てを台無しにしてやる。怒り。妬み。俺の心は憤怒し。そう思った」
「だだだっでも、平君を殺すことは、」
「恋人。同士だったんだ」
「はっ?」
「はあっ?」
「え、ええっ!」
「無論。平が好きだったのは、くそっ。俺じゃない。俺じゃない。くしゃみだ。もし、くしゃみが死んでも。俺が死んでも。あいつは、くしゃみのことを心に思う。くしゃみが手に入れたものが、この世界に残ることが許せなかった。だから。だから、殺した。あいつの手に渡るくらいなら」
「お前の一人相撲に、他人を巻き込むなよ」
「くだらねっ。とんだ肩透かしだ」
「なななにも、そんな自分を、うっちゃらなくても」
「勇み足だったとは思う。けれど、自分が自分でないような。そんな死に体は、ごめんだよ。探偵になれない僕は、犯人になるしかないじゃないか。番狂せを起こす。それが関の山。金星なんて、とてもあげられない。ふふ。僕は黒星だけれど、あいつにも土をつけられたんだ。満足さ。さあ、もう。待ったなし。土俵際。千秋楽だ。物言いはしない。三役揃い踏み。僕を、」
関は、蹲踞し、両腕を広げる。
「警察に突き出してくれ」
パトカーの中。
関脇に警察二人。
その後ろ姿を、ただ、呆然と見ていた。
のこった。のこった。のこったは三人。

