俺のBL小説がドラマ化するらしい

ジリリリリリリリ

勝手に閉じようとする瞼を根性で押し上げると、けたたましく鳴るスマートフォンの目覚ましを止める

「ん〜…!」

「よし」

今日は、ついにキャストさんとの顔合わせの日だ

身支度を整える
服装だがスーツはやり過ぎかな…と思い、オフィスカジュアルに仕上げる

どんな人が、ヤンキーくんとメガネくんを演じてくれるのか
楽しみな気持ちを抑えきれぬまま、玄関のドアノブをひねる

朝日がとても気持ちよく感じる
いい一日になりそうだ

————

場所は、前回打ち合わせをしたビル

電車を待ち乗り込む

今日は日曜日
朝ということもあり、電車は空いていたが、ある集団が目に入る

どこかの高校のサッカー部だろうか

どこかで練習試合でもあるのだろう
ユニフォーム姿にとても大きなリュックを背負っている

そういえば、神崎もサッカー部に属していた

1度応援に行ったことがある

決していい思い出だけだったとは言えないが、とてもかっこよかった

嫌だな

変なことまで思い出してしまう

——————————————
_高校1年生

入学してから、まず選択を迫られるものといえば、部活だ
俺は中学生の時から帰宅部を貫き通している
高校でも、そのスタンスは変えないつもりだ

「ねえ、翔は部活はいる?」
「入らないかな」
「そうなんだ」
「うん、実はアルバイトしようと思ってて」

翔は小声になり耳打ちで俺にそう伝えてくる
この学校はアルバイト禁止だ

「え、うちダメでしょ?なんで?」
「普通に小遣い稼ぎ」

彼は意外と規則にとらわれない強い人間かもしれません。

「おーい、奏。部活とか入んの?」
「あ〜、考えてない……かな」
「え、なんで?」
「俺そういうの向いてなくて。蓮は?」
「サッカー部!!」

そう言いながら、目の前に突き出された入部届けには、とても大きな字で"サッカー部 神崎蓮"と殴り書きされていた

うん、蓮っぽい

入学式で話して以来、蓮はやけに俺に絡んでくるようになった

正直満更でもないが、周りからの目は痛い。

男子からは、ろくでもない奴と絡んでるやつ
女子からは、なんで蓮くんみたいなイケメンがお前みたいな陰キャと…

といった感じだ。

「サッカーは、中学生の時からやってるとか?」
「あ、そうそう。よくわかったね」
「体格がいいから」
「そう?俺最近鍛えてるんだよね〜」

"ぜひ、その筋肉を見せて欲しい"

口から出かかった言葉を慌てて飲み込む

どうした俺、冷静になれ。

急に黙った俺を少し戸惑うような表情で見つめてくる蓮
俺は誤魔化すように慌てて会話を続ける

「そうなんだ、だからか」
「そそ、奏もやる?」
「や、や、やらないよ…!」
「嫌がりすぎだろ。奏、部活入らないんだな、分かった」

といい、拗ねたように唇を尖らせながら自分の席に戻っていく。

カッコイイだけじゃなくて、愛嬌もある

こんなの、全人類放っておけないな。
きっとサッカーしてるところもかっこいいんだろう
学校中の女子から、フェンス越しに騒がれたりするんだろうな…

————————

キャーーーッ!!神崎く〜〜ん!!

女子の軍団がフェンス越しにグラウンドを見つめ、黄色い歓声をあげる

嘘だろ…

まさか、ほんとにそうなるとは…

蓮がサッカー部に入部してからというもの、その人気っぷりは留まることを知らなかった

部活の度に大量のドリンクとタオルの差し入れ

彼が出ない試合にも、彼目当ての女子が応援に殺到するらしい

入学当初は、人からこわがられていた人間が
どの差し入れも、応援も笑顔で受け取るもんだから、人気に火がついたようだ

数少ないマネージャー枠も取り合いだったそう

マネージャーが、蓮にタオルとドリンクを手渡す
あの子は確か隣のクラスの子だった気がする
可愛らしい子だ

楽しげに一言二言交わしている
流石にこちらからでは、話の内容は分からないがとても盛り上がっているように見える


ふ〜ん、誰にでも優しいんだな…

なんか、悔しい、な…

めちゃくちゃモヤモヤするし…



いや、別に嫉妬とかじゃ無いはずだけどね?

好きじゃないし

ただ、顔がタイプなだけ
彼と一緒にいるのが落ち着くだけ
こんな陰キャに話しかけてくれるのが嬉しいだけ

うん、ただそれだけ

そうだよ、陰キャに優しいやつは誰にでも優しいっての。

そう心でつぶやき、1人で帰路に着いた

蓮が部活に入るまでは一緒に駅まで帰っていた

もう1人で帰るのも慣れたけどね


家に着いてもモヤモヤが消えることはなかった


今思えば、あれはれっきとした"嫉妬"だったんだろう

————

次の日、学校へ行くと蓮がすぐに飛んできた

「昨日、俺の部活見に来てただろ」
「いや、見たというか、帰り道にちょっと通っただけで」
「どうだった?俺やっぱりかっこよかった?」

そう言いながら、わざとらしく髪の毛をかきあげる動作に悔しいが笑ってしまう

「いや、蓮そんなキャラじゃないでしょ」
「バレた?」
「ごめんけど、サッカーしてるところは見れてないんだ」
「そうなんだ」

何故か少し落ち込んだ様子を見せる

「でも、あれだね、マネージャーの子可愛かったね。お似合いだったし」

場を繋ぐために、適当なことを言ってしまった
全くそんなことは思ってない

昨日、2人が話してる姿を見てむしろモヤモヤ止まらないのに
なんで俺はこんな余計なことを言ってしまうんだ

「…あ、そう?確かに可愛いよな」

やっぱり、蓮もそう思ってるんだね
うん、そうだよな、そっちの方がいい

「付き合ってるの?」

蓮は驚いたような顔をし、

「え?まさか」

そう言って、鼻で笑う

少し、怒ってる…?
蓮から初めて怒りを向けられた気がする

「ま、たしかに俺はモテるけどな〜」

そう言って笑うと
俺課題終わってないわ〜、と言って自分の席に戻って行った

まだナルシストキャラ続いてたんだ…

俺の気のせいだったのか、もう彼からは怒りを感じなかった

恋愛のことに踏み込むのはやめておこう

もし、あそこで、俺とマネージャー付き合ってるよ。そう返されていたら

そう考えただけで、胸の奥が締め付けられて呼吸が苦しくなる

自分のためにも、蓮のためにも余計なことは聞かないでおく。

そう心の中で決めた

————
_高校2年生

あれ以来、蓮に対して恋愛の事は聞かないようにしていた
そのお陰か、彼との仲は良好と言えるものだった

かと言って、大きな進展は一切ないけどね

そして今日、俺たちは2年生に進級する

1番の問題は、そう

【クラス替え】

一年に一度の大イベントだ

俺の学校のクラス替えは、それぞれの学年の下駄箱の掲示板に張り出されるシステム

朝登校すると、早速人だかりが出来ていた

俺の希望としては、翔と同じクラス

そして、あわよくば蓮と同じクラスになりたい

あまり身長が高い方ではない俺は、少し人が捌けるのを待って掲示板の前に向かう

朝比奈、朝比奈…
2組だ。やはり出席番号1番
すぐ下には、井上 翔
彼も同じく2組だった

問題は、彼。
神崎、神崎、神崎…

「あっ…!」

思わず声が漏れた

彼は2組

そう、同じクラスだった
本当は飛び上がりたいほど嬉しかったが、周りには人がいる
ぎゅっと拳を握りしめ、控えめなガッツポーズをする

急ぎ足で教室に向かう
クラスの半分以上は登校していたが、蓮の姿はまだ見えなかった

クラス替えして最初の席は出席番号順
後ろは去年に引き続き翔だ

「めちゃくちゃニヤけてるね、そんなに俺と同じクラスが嬉しい?」
「違うわ」

1年も経つと、翔ともラフな会話をできるようになっていた

「はいはい、神崎君ね」
「そうそう…えっ、?」
「ね〜」

そう言いながら、ニヤニヤ俺のことを見つめてくる

「神崎君と仲良い、あのマネージャーの子めっちゃ可愛いもんな。俺も神崎君と仲良くなったらあの子ともお近づきになれるのかしら」
「なれねえよ」
「厳しい、お手柔らかにお願いします」
「善処します」

…焦った

鼓動が早くなり、微かに手が震えている

翔は、意外と鋭かったりする
俺も普段からバレないように気を張っていた

が、1年間また蓮と一緒
その事実が嬉しくて、ニヤケ顔を収めるのを忘れていた

俺の不手際だ

改めよう

まだ蓮の姿は見えない

それに加え、何席か空席が見られる

キーンコーンカーンコーン

朝のHR開始を告げるチャイムが鳴っている

廊下からは数人の走る足音が聞こえた

「セーーフ!!!」
「アウトだ!」

「えぇ〜」
「まあいい、今日は許すが、明日からは許さん。しっかり学校に間に合うように朝練の時間を調節しろ」
「はーい」

蓮を含め数人のサッカー部が、席に着く

新学期初日から朝練とは、お疲れ様だな
そう思い蓮の方を見ると、彼もこちらを見ていた

目が合うと、満面の笑みでグッドマークをしてくる

あれはきっと、また同じクラスだな。的なことを言ってるんだろう

俺もまたグッドマークで返す

すると彼は満足気な顔で先生の方を向いた

心做しか、髪色が落ち着いたように見える
春休み中に染めたのだろうか

「今日から2年生です。新入生が入ってきます。お前らもついに先輩だ、お手本となる生活を送るように」

後輩がついにできる。

それと、俺は部活に入ってないから知らなかったが、次の全校集会では部活動紹介があるらしい。

たしか俺らが1年生の時もあったな。部活入るつもり無かったからろくに聞いていなかった

まあ、後輩が入ろうと俺には関係ない

いままで通り平凡な生活を送ることができればそれで満足だ

「奏!また同じクラスだな!」

彼に大きな犬のしっぽが見えたのは気の所為だろうか

「そうだね」
「ついに俺も先輩か〜」
「だから、髪の毛染めたの?」
「え?」
「なんか暗くしなかった?」
「…嬉しい。気づいてくれたの奏だけ!!!」

いつも見ているからね
蓮の変化には些細なことだって気付くんだ

「部活動紹介、ちゃんと見ててよ。なんか先輩から無茶ぶりでさ、2年生が皆リフティングしないといけないんだって。15回できなかったらその日の部活、ランニング校庭5周追加!」
「頑張ってね、ちゃんと見とくわ」
「うん、ありがとう」

そういうと、彼は部活の仲間に呼ばれてそちらへ行ってしまった

「なんか、神崎君、大型犬みたいだね」
「分かる」

————

全校集会。
今日は部活動紹介の日だ

サッカー部が前に出る

新入生の方から少しどよめきが起きる

彼ら、彼女らの視線は全て蓮の顔に向けられている

蓮は顔だけじゃない
顔だけの人間じゃないのに

部長が挨拶と部活動の紹介を行っているが、誰一人聞いてない
耳に入ってないだろう
全員の意識が蓮に向けられているのでは無いかと、俺は思ってしまった。

そのままリフティング披露に移る
全員難なく15回のリフティングをこなす

先輩たちは2年生ができることをわかってて罰を課したのだろう
いい先輩たちじゃん

そう思って、蓮の顔を見ると、気まずそうな、納得してないような顔で無理やり笑顔を作っている

どうしたんだろう?

そう思うが、彼は今全校生徒の前に立っている
俺は何百人かの内の1人として座っている

今前に出て、どうしたの?と聞く訳にも行かず、大人しく座っていた

部活動紹介の甲斐あってか、(神崎蓮の顔面効果か)プレイヤー部員はもちろん、マネージャーの希望者も殺到したらしい

去年と同じだ

黄色い歓声をグラウンド向かってあげる女子生徒の数もだいぶ増えたような気がする

そして問題は、あのマネージャーとの仲だ

前に比べてまた親密になったように見える

体の距離も近いし、休憩の度に話しているし
蓮にドリンクとタオルを渡すのは必ずあの子だ

グラウンドを見つめる女子たちからも

あそこ付き合ってんのかな
でも、お似合いだしね
むしろ付き合ってて欲しい

などとの声が聞こえる


そんな訳ない

付き合ってないって、蓮が言ってた

本人がそう言ってたんだ


そう思っても、2人の仲の良さを目の当たりにすると、俺も自信がなくなってきていた

——

「ね、奏」
「ん?」

後ろの翔から声をかけられた
振り向くと妙に思い詰めたような顔をしている

「え、どうした??」

そう俺が聞くと、彼は前のようにまた小声になり、グッと俺に顔を近づけてきた

「前、バイト始めるって言ったじゃん?」
「うん」
「実は、駅前の映画館でバイト始めたんだよ」
「うん?」

それが一体どうしたというのだ
なにかやらかしたのだろうか

ポップコーン客に渡す前に全部落としたとか?

「やらかしてねえから」
「ごめん」
「それでな、来たんだよ」
「来た?」
「そう、神崎蓮とあのマネージャーだよ!」
「えっ…?」

翔は、もしかしてあの2人付き合ってんのかな〜。
うわぁー、俺失恋したわあ。とか、なんとか言っていたが正直耳に入っていなかった

翔の声が遠くの方に聞こえる

蓮と、あのマネージャーがふたりで映画?

いやいや、まさか
別に友達でも一緒に映画に行くことはある

友達じゃなくても、見たい映画が一緒だったりしたらその場のノリで行こう!とか、有り得る話だろう

違う、付き合ってるとかじゃない

蓮がそう言ってた

付き合ってない、あの子と蓮はそんな関係じゃない

「おーーーい、奏?」
「あ、ごめん、なんもない」
「そう?いや〜、まじでお似合いだったなあ」
「はは、そうだよね」

俺は誤魔化すのに精一杯だった
話が入ってこない

「なんの話ししてんの?」

噂をすればなんとやらだ

蓮がいつの間にか近くに来ていた

「いや〜なにもお〜」

翔はニヤニヤしながらそう返した

「ならいいけど」

そう言いながら、蓮は翔の肩を掴むと、前のめりになっていた翔を椅子に座らせた

「いてっ」

翔は短く悲鳴をあげたが、蓮は聞こえていないかのように教室を出ていった

「大丈夫?」
「大丈夫。俺、乱暴されるの嫌いじゃない」
「キモイよ」
「だから、お手柔らかにって言ったじゃん」
「ごめん」

そんな会話をしながらも頭の中は蓮とマネージャーの事でいっぱいだった

でも、恋愛のことは聞かない。話さない。

自分で決めた事は曲げたくなかった

いつしか全校集会で見た彼の顔のことも忘れてしまっていた

それほどに翔から聞いた話は、俺にとって大きな衝撃になった