——9年前の春
俺らが出会ったのは…
いや、出会ったというか、俺が彼のことを初めて目にしたのは高校の入学式の日だった。
派手な金髪に、たくさんのピアス、初日から着崩してる制服。
他の生徒と比べてもとても派手な容姿で、
嫌でも目に入ってしまう。
(俺らの学校はちょっとした進学校で、彼のような人間が多いところでは無かった)
先生にももちろん目をつけられ、入学式の前に廊下に呼び出され、グチグチ説教されているようだった。
初日からお疲れ様です…
俺はちょうどトイレから教室へ戻っている途中だったが、ダルそうに立つ彼と呆れたような顔をした教師の2人が目に入る。
陽キャとかヤンキーとか、心底苦手な俺は、絶対に関わってたまるか、と足早に過ぎ去ろうとした。
「だっ!!!」
気がついたら地面が目の前にあった。
全く運動したことない俺には、咄嗟に手をつくような反射神経が備わっている訳もなく、
そのまま大きな音を立てながら、転倒してしまった。
「「えっ!?」」
二人の目の前でこけたものだから、教師もさすがに説教を中断し俺の救助に回った。
「すみません…」
今すぐにでも消えてしまいたい…
教師に助けてもらいながら、なんとか立てたものの、
全身の痛みと、入学初日からこのドヤンキーの前でこけてしまった恥ずかしさで顔があげられない。
あれ、
え?
メガネがない…
「はい」
声が聞こえ、目線を前方にやると俺の眼鏡が差し出されていた。
「ありがとう、ございます…」
「いいってことよ」
ヤンキーが拾ってくれた眼鏡をかけて、顔をあげると彼の顔がすぐ目の前にあった。
派手な服装や髪型に目がいってしまうので気が付かなかったが、とても綺麗な顔をしている
柔らかそうでサラサラの金髪
綺麗な二重で少し垂れた茶色の瞳
鼻筋が通った控えめな鼻
ピンクがかった綺麗な唇
「え…どうした?」
「あっ、ごめん、なんにもない」
絵に書いたような美しさに見とれてしまっていたようだ。
「はぁ…もう…とりあえずもうすぐ入学式始まるから一旦2人とも席に着け」
「ほーい」
「はい」
教師に対する気が抜けるような返事を耳にしながら、俺らは教室に戻ってそれぞれの席へ座る。
綺麗…だったな
「はい、そしたら〜、もうすぐ入学式始まるので、皆出席番号順に廊下に並びましょうか」
はぁ…俺はこの出席番号順というのがどうも好きではない。
俺の苗字は朝比奈。
ほとんどの学校生活を出席番号1番で過ごしてきた。
入学式の入場も1番、クラス替えしてからの自己紹介も1番、卒業証書授与式も1番に受け取る。
特に自己紹介が最悪だ。
俺が最初に言った内容がテンプレートになり、教室を回っていく。
同じように自己紹介が好きじゃないであろう人間たちからの、言う内容を増やしすぎるなよと言う視線を感じながらする自己紹介はもちろん心地のいいものでは無い。
でも、今回に限っては少し楽しみにしている自分がいるようで、そんな自分に驚いた。
理由としてはただ1つ。
あの綺麗な人の名前が知りたい、
それだけだった。
直接聞けば良いのかもしれないが、それは無理そうだ。
彼のことを思い出すと、手が震える。
彼の顔を思い出すと、鼓動が早くなり緊張が高くなる。
顔に熱が集まるのを感じる。
俺は、もしかすると…
いや、一言交わしただけだ。
そんなことはありえない。
「あれ、朝比奈君」
俺の前で列の整備をしていた担任の教師が、声をかけてきた
「はい」
「もしかして、入学式緊張してる…?」
手の震え、顔の赤みがもしかしたらそう見えたのかもしれない。
そう思うと少し面白く思えて、思わず吹き出してしまった。
「いえ、全然大丈夫です」
「そうか?さっき派手に転けてたし、体調悪かったら言えよ」
「ありがとうございます」
厳しい先生なのかと思っていたが、全然そんなことは無さそうだ。
確かに、入学式の日からあんなビジュアルのやつがいたら厳しくもなるか…
とか頭の中で考えながら、いつの間にか歩き始めていた担任に続いて体育館へ向かう。
体育館へ入ると、来賓の方や新入生の親達が椅子に座り拍手をしながら俺たちを迎え入れてくれた。
ただ、少しザワついているように感じた。
そりゃそうだ。
娘、息子達が真面目に勉強して入った学校の入学式にいかにもなヤンキーがいる。
これから大事な子達の華の学校生活が始まるのだ、心配をしてもおかしくないだろう。
でもきっと、彼はみんなが思っているような人間じゃない。
俺には何故かそんな確信があった。
入場して、席に座る。
一同起立やら、礼やら、あまりにも長い来賓の挨拶やらをどうにか乗り越え、入学式は閉会した。
退場しようと出口の方へ体を向けると、目線の横の方に彼の姿が写った。
今まで気が付かなかったが、入学式中はずっと後ろの席に座っていたようだ。
横に並んでわかったのは、身長が割と高く、胸板も厚い。
なにかスポーツをしていたんだろうなと思わせるスタイルだった。
これは、周りの人間が彼の魅力に気がつくのも時間の問題。
俺だけが知ってるという優越感もきっとすぐズタズタに切り裂かれるだろう。
いっその事、誰にも気付かれずに俺だけのものに…
なんてね。
まあ、妄想するのは自由だしね
とは思いつつ、自分の独占欲に若干引きつつ。
列に続いて、教室に戻った。
そして、あの時間が始まった。
——
「それじゃあ、自己紹介タイムとしましょうかね。一番の朝比奈君から順番にお願いします」
ほら、やっぱり俺が1番手だ。
無難に名前と出身校、高校の抱負でも言って終わりにしよう。
ゆっくりと立ち上がると、教室全体に届くようできるだけ大きな声で自己紹介を始めた
「北中出身の、朝比奈 奏です。中学生の時は忘れ物が多かったので、高校では忘れ物ゼロを目指して頑張ります。よろしくお願いします」
無事自己紹介を終えて拍手を受けながら静かに座る
1番手は、言ったことを変に覚えられてないから、その辺は結構都合がいい。
皆、俺が作ったテンプレ通りに自己紹介を進めていく。
部活頑張ります、勉強頑張ります、恋愛頑張ります…
いろんなバリエーションがあるもんだな。
そして、ついに彼の番になった。
少し乱暴に立ち上がる
「え〜…神崎 蓮です、ん〜、よろしくお願いしま〜す」
見事にここまでのテンプレをぶち壊した
どこまでも気だるげな雰囲気を纏っている
かんざき れん
"れん"
……とても綺麗だ
神崎くんの、斜め前。
少し派手な女の子二人がキャッキャッ騒いでいる。
2人は、神崎くんの顔を見て騒いでるらしい。
ばれた。
もうばれた。
まあ、時間の問題だった。
思いのほか早かったけど。
神崎くんは迷惑そうにそのふたりに目線をやると、ドスンと、座った。
目が離せない
視線を感じたのか、彼もこちらに目をやる
目線が絡まり合う
電撃が走ったかのように目が離せないでいた。
彼はいたずらに笑うと、頬杖をつきこちらを見つめる。
彼もまた目を離してはくれない。
フッと片口角を上げて笑うと、ようやく解放してくれた。
やっと、深く呼吸が出来た。
ゆっくりと深呼吸をすると、前を向き直しあとのクラスメイトの自己紹介を聞き続けた。
「よし、じゃあ、これでみんな終わったかな。次の時間もまたHRが続くので時間までに自分の席に戻るように」
担任がそう言って教室を出ていったあと、ガタガタガタとみんな席を立ち始めた。
中学校が同じもの、部活で会ったことがあるもの、などある程度やっぱりコミュニティはあるものだ。
俺は正直そういった繋がりは全くない。
が、焦りもない。
小学生の頃から筋金入りの陰キャだ。慣れてる。
ふと後ろの席に目をやると、後ろも少し静かそうな男の子が座っていた。
確か、いのうえ、とか言ったかな
「あさひな、くんだっけ」
「うん、確か井上くんだよね」
「そうだよ、よろしくね」
「こちらこそ、よろしく。奏って呼んで?」
「じゃあ、僕も翔って呼んで欲しい」
なんか、友達出来たみたいです。
翔は、小説を読むのが好きで、ゲームはあまりしないらしい。今どきの高校生としては珍しい気もするが。
「奏も、小説好き?」
「…うん、好き、かな」
好きというのも、読む事ではない。
俺には中学校から続いている趣味がある。
小説を書く事だ。
小説家の真似事のようなことをしている。
純愛や、ミステリーではない。
BL小説。
それが俺が書く小説のジャンルだった。
内容としても小説と言っていいものかは分からない。
日頃の妄想をできるだけ綺麗に文字に起こしているだけ。
人様に読んで貰うようなものではない。
そこから、翔とは一言二言交わすと話題も尽き前に向き直った。
ぼーっと前の掲示板に貼ってあるやけにカラフルなポスターを見る。
特に興味もないが、暇は潰せる。
「よっ」
「うわっ」
「ごめんて」
と言いながら人懐っこい笑顔を浮かべるのは、神崎 蓮だ。
「えっと…どうしたの?」
「いや別にこれっていう用は無いんだけどさ」
用なく人に話しかけられる能力は尊敬に値する。
自分には一生かけても得られないだろう。
「忘れ物多いの意外だなと思って」
「覚えてたんだ」
「うん、意外と可愛いとこあんだな〜と思ってさ」
普段は全く覚えられてない自己紹介内容を覚えられていた上に、可愛いときたもんだ。
俺の頭はショートした
「おーーーい、奏くん?」
「はい、奏です」
「知ってるよ」
これでもかと笑い転げる彼を見ていると、何故かこちらも笑顔になる。
やはり、彼はいい人だ。
「神崎君は、結構記憶力いいんだね」
「蓮でいいよ」
「え?」
「はい、せーの、蓮」
「れ、蓮」
「よく出来ました。そうなんだよね、俺ちょっと興味があることはすーぐ覚えちゃうの」
「そ、そうなんだ」
"興味がある"
俺は、彼が発する一言一言に心を乱されまくっている。
正直、同性が恋愛対象の自分は、これまで友達としての言葉に期待し、絶望し、諦めてきた。
蓮のこと言葉もきっと、何も深い意味などない、ただその場で発しただけの事だ。
今回も期待してはいけない。
それは分かってるけど。
どうしても心が踊ってしまう。
落ち着け。
「あ、ねえねえ、蓮くんだっけえ?」
自己紹介の時に、彼のことを見て騒いでいた女子二人組が連に話しかける
「あ?」
「え、あ、あのさ、連絡先とかくれない?」
「なんで?」
「仲良くなりたくてさ」
女子たちの顔がどんどん恐怖に満ちていく
ちょっと、確かに、言い方が怖い…
「あぁ、なるほどね。はい」
そういうと、蓮は彼女たちにSNSのQRコードを差し出す
2人はニコニコでそのコードをスキャンするとばいばーいと言いながら、手を振り、席に戻って行った。
言い方と、表情は少し怖いけど人を拒絶するようなタイプでは無いらしい。
「奏もやってる?」
「一応…ほぼ見るだけだけど」
「繋がろうよ」
「うん」
そういって、アプリを開くも何処からスキャンするのかわからずてんやわんや
結局、蓮がやってくれた
「ごめん、ありがとね」
「いいよいいよ、連絡するわ」
そういうと、席に戻っていった。ちょうどその頃に担任も戻ってきて、今日最後のHRが始まった。
今日が入学式だから、そんな長くなることも無く、軽く今週の予定などを案内されただけだった。
さ、帰ろう。
皆は親が入学式が終わってからも待ってくれてたみたいで、車で帰っていく子がほとんどだった。
俺の親は早々と帰っていったみたいで、しっかり電車で帰ります。
なんでよ。待っててよ。
そんな事を心でブツブツ呟きながら駅へ向かう。
「ちょちょちょ」
「あ、蓮」
「家帰んの?」
「帰るよ」
「腹減らない?」
「…減った」
「おし、食っていこうぜ」
そういうと、彼は学校近くのコンビニに向かっていった。
背が高い分歩くのが早い。
俺は必死で追いつけるように歩いた。
それぞれおにぎりやサンドウィッチなど、軽食を買うと、これまた学校近くの公園のベンチに入り二人で座った。
「「いただきます」」
何の変哲もないおにぎりだったけど、なんだか美味しく感じた。
特に何を話す訳でもないけど、とても心地がいい。
最初蓮のことを考えると手が震えていたが、それは何故か出なくなっていた。
彼の温かさに全てを包み込まれているような、そんな感覚だ。
「「ごちそうさまでした」」
「帰るか」
「そうだね、誘ってくれてありがとう」
「いいえー、これからも仲良くしてな」
「こちらこそ」
そんな話をしながら駅へ向かう。
電車は逆方向らしい。
そのため、蓮とは駅の改札でバイバイだ。
「ばいばーい、また明日な」
そう言いながら、ホームへ降りる階段の前から大きく手を振られる。
周りに人がいたので少し気恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。
「また明日!」
自分も大きく手を振る。
また明日からの学校生活に心を踊らせながら、家路に着いた。
ガチャ
「なんで帰るんだよ!!」
「ごめん!俺ら腹減ってた!!」
「もう!」
一言だけ家族に文句を言ってみた
でも、今回に関しては感謝かもしれないな
もし、車で帰っていたら、あの時間はなかったのだから。
今日一日ですごくたくさんのことが起こった気がする。
やはり新学期は心も体も疲れやすい。
明日からに備えて、ゆっくり休もう


