その後、制作部の佐藤さんとのメールのやり取りを重ね、ついに打ち合わせの日時が決まった。
1週間後、都内某所ビルの会議室で行われる。
打ち合わせまでの1週間、時間の流れがとても遅く感じる。
「…さん!!ちょっと、朝比奈さん!?」
「えっ、あ、ごめん」
彼女は、仕事の後輩の岩崎。
年齢は2個下だが、年下とは思えないほど頼りがいがあり、
変なところが抜けている俺は彼女に何度も助けられている。
「どうしたんですか〜?ぼーっとして」
「ごめん、ばれた?気にしないで」
「体調悪いなら無理しないでくださいね」
「ありがとね」
こういった気遣いができる所も彼女のいい所だ。
1週間もこんなに緊張しっぱなしだと、本当に体調を崩しかねない。
大丈夫か、俺…
——
仕事にも、毎日続けていたはずの執筆も全く手につかないまま打ち合わせの日になった。
受付の方に案内され、ガラス張りの部屋が並ぶ長い廊下を歩く。
鼓動が早くなるのを感じる。
当たり前だ、長年掲げていた夢が手の届く場所まで来てる。
「こちらです」
「ありがとうございます」
ここまで案内してくれた受付の方に軽く会釈をする。
相手は柔らかく微笑み、会釈を返すと来た道を戻って行った。
コンコンコン
ドアをノックする。
乾いた音がやけに耳に残る。
中から、「はい」と返事が返ってきた。
ドアノブに手をかける
震えている手が目に入る
「また震えてる」
そう呟くと、短く深呼吸し、ゆっくりとドアを開ける
広くて開放感がある会議室には、2人の男性が座っていたが、俺の姿を見るとすぐに立ち上がり、こちらに礼をする。
2人に釣られて、思わず礼を返す。
緊張して、言葉も発せず1歩も踏み出せない。
そんな俺を見かねてか、1人の男性がとても人懐っこい笑顔を見せながら近付いてくる。
思わず後ずさりしそうになった。
「初めまして、私メールのやり取りをさせて頂きました。制作部の佐藤と申します」
そう言いながら名刺を渡された。
受け取ろうとする手は、やはり震えている
「あっ、どうも…」
「同じく、竹本です!」
いつの間にか、近づいてきていたらしいもう1人の男性も名刺を差し出す。
「あの、えっと…冬月と申します。この度は、とてもありがたいお話ありがとうございました」
2人の明るい雰囲気に緊張も軽く解けたのか、ようやく言葉を発することができた。
「いえ、こちらこそ提案を快く受け入れていただきありがとうございます。立ち話もなんですので、是非こちらにおかけ下さい」
「失礼します」
自分の仕事場の椅子とは違い、とても座り心地のいい椅子に感動しつつ、2人と向き合う。
「改めまして、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします…」
今日は少し暖かいですね、などありきたりなアイスブレイクを挟むと、打ち合わせに入る。
「早速ですが、ドラマ制作についてのお話を進めてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「この作品を書いたきっかけなどはありますか?」
打ち合わせって面接みたいな質問もされるんだな
アイスブレイクで溶けたはずの緊張が少し戻ったような気がした
「う〜ん…高校生活で描いた理想ですかね」
「理想、ですか」
「はい、多様性が広まったとはいえ、当事者はやはり多くはありません、その時描いた、よく言えば理想、悪く言えば妄想を文字に起こしてみたんです」
「なるほど」
「それをサイトに投稿して、今に至ります」
モデルがいることは言えなかったが、小説を書き始めたきっかけとして嘘はついてない。
竹本さんは、俺が答えた内容をパソコンにメモする役割のようだ。
「ちなみに、ドラマ化にあたってここは大切にして欲しいなどはありますか?」
「ヤンキー君のキャラクターですかね」
「ヤンキー君ですよね〜…」
なにか意味ありげに語尾を濁された気がするが…
「彼は乱暴に見えますが、とても暖かい人間です。そこは大切にして欲しいなと思います」
「私共としても、そこはとても大事にしたいところなんです」
ですが……とやけに間を開ける佐藤さん。
「キャストの候補が…中々決まらず…」
「キャスト…」
「はい、今回の作品はオファー形にしようと思っておりまして、オーディションは予定していないんです。なので、制作側で合う人物を探して声をお掛けしてます」
ドラマって、オーディションのイメージだったが、オファーというパターンをあるんだな、初めて知った。
「それで、メガネ君のキャストの方は決まってきてるんですが、ヤンキー君の方が何百人見てもピンとくる人物が居ないんです」
「…なるほど」
そりゃそうだ。
と心の中で苦笑する
ヤンキー君にはモデルがいる。
俺の心に残り続けているモデルが。
正直いうと、この役は誰にも演じて欲しくない。
いや、誰にも演じることはできない。
ヤンキーくん役は、決まり次第連絡して頂けるということになり、家に帰る。
家で一人になると、嫌でも思い出す。
高校の時の思い出を____


