こころ

「花崎さんはお昼いつもお弁当だよね?作って持ってきているの?」
 次の日、高野昴は私にそう聞いてきた。
 正直、ここまで高野昴が口数が多いと私は思わなかった。
「私には両親も頼れる親戚もいないから、基本的に自分で作ってるわ」
「すごいね」
 高野昴は続けて
「父子家庭なんだ。俺の家。」
 と言った。
 私は高野昴の方を見る。高野昴はいつものように穏やかな笑みを浮かべている。
「心の声」は聞こえない。
「そう、なのね」
 私はそう言うことしかできなかった。
「こういう話するとさ、可哀想とか言われて同情されるんだ」
 私は返事の代わりに頷いた。
「同情してほしくて言ってるんじゃない、のにね」
「その通りだ。こっちはただ聞かれたからそう返しただけなのにね」
 私の呟きに高野昴はそう返した。
 私達は無言になった。けど、不思議と心地よかった。
「どうして私と話したいと思ったの?」
 気になっていたことを私は聞いた。
 高野昴は穏やかな笑みを浮かべたまま言った。
「似てるなって思ったから」
「似てる?」
 思わず聞き返した。どこが似ているというのだろうか。
 そう思っている私に、高野昴は続ける。
「人に対するときの物事の見方がさ、似てるなって思って」
 群れになりたくない、独りがいいって思ってるところとかがね。と高野昴は続けた。
「話す前から分かっていたの?」
「さすがにあれは解るでしょ。皆、近寄りがたくて来ないだけみたいだけど」
 そこまで解っているのならここでも話しかけないでほしかった。
「ここでも話しかけないでほしそうだったんだけどさ。なんとなく、話してほしそうにも見えたから。矛盾してるけどそう思ったんだ」
 それに本当に話しかけないでほしいなら、僕のことを無視するなり撥ね付けたりすりでしょ。と高野昴は言った。
 私は否定できなかった。
 「人を信じられないし好きじゃない。だけど、人と話すのは嫌いじゃないわ。矛盾よね」
「いいんじゃない。矛盾してても。」
自嘲するように言う私に、高野昴は私の顔を覗き込むようにして言った。
「矛盾しない人なんて、そもそもいないよ?
 俺だって孤独を選んだのに、こうして花崎さんと話してるし。これも矛盾だし」
「孤独を選んだ?」
 私が高野昴に聞いたタイミングでチャイムがなった。
「明日話すよ」
 高野昴はそう言って屋上をあとにした。

ー☆ー

 次の日は雨が降っていた。
 私は構わず屋上に向かう。扉の前で高野昴は待っていた。屋上に入ってすぐに、高野昴は話し出した。
「俺さ、人付き合いが苦手なんだ。人の言動で本心はどう思ってるとか解っちゃうから。普通じゃないとかも言われたことあってさ。だから孤独を選んだんだ」
「それは物心ついたときから?」
「そうだね。気がついたときにはって感じかな」
 高野昴は続ける。
「俺は孤独を選んだことは後悔してないよ、少しも」
「私も、孤独を選んだことに後悔はしてないわ」
 ポツリとそう言った。どこか自分に言い聞かせる響きがあった。
 高野昴もそれに気がついたのか
「俺から見た花崎さんは、無理にそう思うようにしているように見える」
 高野昴が言うように、そうなんだろうかと私は思った。自分でもよくわからない。
「私はもう、心が麻痺して痛みも感情もわからない」
 高野昴は心配そうな顔で私を見ていた。
「私は人が嫌い。信じられないから」
 私は雨が降っているのを、見つめながら言った。
 高野昴は私の言葉に対してなにも言わなかった。
 なにがあったとか聞こうともしなかった。ただ心配そうに、私を見ていた。