こころ

 花崎さんが教室に来ない。
(いつもこの時間ならいるのに)
 花崎さんは俺が教室に来る頃にはもう来ている。今の時間で来ていないのはおかしい。
「あいつやっと来なくなったねぇ」
 天野さんの甘ったるい声が教室に響いた。
 天野さんと一緒になって、取り巻きもクスクスと一緒になって怯えた表情で笑っていた。
(誰のせいだと思って……!)
 俺は憤りを覚えずにいられなかった。
 林先生も林先生だ。花崎さんが顔を腫らしているのを判っていたにも関わらず、相手にしなかった。花崎さんは最初からあてにしてなかったみたいだけど、あれは犯罪行為になる。
 昨日の花崎さんとのやり取りで、天野さんはいじめだって判っててやってる。
 いじめのターゲットは、クラスメイトだろうが先輩だろうが後輩だろうが関係ない。天野さんは自分より才能がある人達に妬んでいじめてる。ここでそれを指摘することは簡単だった。だけど、そうすることよりも先に花崎さんのことが気になった。
(もしかして……)
俺は朝のチャイムが鳴る直前にも関わらず、教室を飛び出し、屋上に向かった。息を弾ませながら階段をあがる。チャイムが聴こえたけど無視した。
 屋上の前着いた。膝に手をついて息を整えた。ゆっくり扉を開ける。
「花崎さん……。やっぱりここに居たんだ(・・・・・・・・)」
 花崎さんはガラス玉のような瞳で空を見上げていた。俺の言葉に花崎さんは視線をゆっくり視線をこちらに向けた。
「鍵がかかってるって思わなかったの?」
「鍵がかかってるって微塵も思わなかった。
 それに靴があったから学校に来ているのは判ってた。でも、教室に来ていない。ここにいるんじゃないかって思った。絶対的に独りになれるここに」
 俺の言葉に花崎さんはなにも言わなかった。
「どうしてここに来たの?天野恵のターゲットにされるわよ」
 花崎さんが登校していない教室で、俺も教室から居なくなればそれは必定だと思えた。だけど俺にはそんなことどうでも良かった。
 俺は花崎さんの言葉を撥ね付けるよう歩み寄った。
 その瞬間、辺りが白く爆ぜた。あまりの白さに目が眩んだ。その時声が聞こえた。
「ーー近づかないで……来ないで!」
 感情的になった花崎さんの声だった。
(やっぱり、超能力者だったんだ……)
 俺は自分の考えが間違っていなかったことを確信した。
 花崎さんは泣いていた。涙こそ出ていないけど泣いているようにしか見えなかった。
 衝撃波が俺を襲い傷つけた。それでも俺は花崎さんに歩み寄ることをやめなかった。
 「来ないで……来ないでよ……!」
 孤独、恐怖、哀しみ……。そんな感情が心の声の嵐となってダイレクトにぶつかってきた。
(なにも感じてないわけ、ないじゃないか)
 花崎さんをそうさせたのは、花崎さんの周囲にいた人達だ。
「痛みも感情も分からないなんて、言うなよ」
 そう言って花崎さんにさらに近づいた。
 花崎さんは怯えた瞳で目の前に立つ俺をみていた。
「大丈夫。もう独りじゃないよ」
 花崎さんにそっと触れ抱き締める。花崎さんはされるがままだった。
 周囲が静まり返り、感情の嵐が収まった。
「昴……。ありがとう」
 花崎さんはそう言い、俺の腕の中で大声で泣きじゃくった。
 俺は驚いた。花崎さんは今まで俺のことも含め、誰かを呼ぶときはフルネームでしか呼ばなかったから。
 花崎さんが感情を素直にだすことができた純粋に嬉しかった。
「花崎さん……、紗希さん」
 俺は優しく紗希さんに話しかけた。
「もう独りじゃない。だから独りで抱え込まないで俺に教えて?俺も抱え込まないで、伝えるから」
 俺の言葉に紗希さんは頷いた。