こころ

 私はいつものように屋上の扉を開けた。私が通う星蘭高校は昼休みになると屋上が解放される。それを知っている人は少ない。人間不信な私にとって、屋上で過ごす時間は、学校生活の中で数少ない心が落ち着く時間だ。今日もそうなる、はずだった。
 いつもは誰もいない屋上に、今日は先客がいることに気がついた。
(あれは、確か……)
 高野昴。私のクラスメイトでクラスで唯一心の声が聞こえない(・・・・・・・・・・・・・・・)人。屋上にいたことがある記憶はなかった。
 屋上にはいくつかのベンチとテーブルセットがあって、高野昴はそのベンチの1つに腰かけて読書をしていた。
「……花崎さん?」
 私の視線に気がついた高野昴が読書をやめ声をかけてきた。私は高野昴が座っているベンチに座った。
「いつも、ここにはいないわよね?」
 私は高野昴に言った。
「いつも昼休みになると図書館に行ってるんだけど、今日は天気もいいし屋上に行ってみようと思って。昼休みになると屋上が解放されるのは入学当初から知ってたから」
 高野昴の言葉に
「私以外に、昼休みになると屋上が解放されることを知っている人がいるのは知らなかったわ」
 と言った。実際、屋上の存在は知っていても昼休みになると解放されるということは知らない人が多い。
 私には幼い頃から超能力があって、コントロールできるようになった今でも、不意に心の声が聞こえてしまうときがある。だから昼休みは誰もいないことが多い屋上で過ごすようにしていた。
「花崎さんは、いつもここに来てるよね」
「なんでそれを知ってるの?」
 高野昴の言葉に私は思わず聞き返した。誰にも気づかれていない、気にしないだろうと思っていたから。
「朝のHR(ホームルーム)前とか10分休みとかは移動教室があったりでさすがに教室にいるけど、昼休みになるとすぐにいなくなってたから。俺も昼休みになるとすぐに図書館に行ってた。でも花崎さんのこと見たことないからたぶんここかなって思ってた。詮索されたくないだろうし、大勢の前で聞かれたくないだろうって思ってたから教室で聞くようなことはしたくなかった。
 それに教室に居たくないから(・・・・・・・・・)、ここに来てるのかなって思ったから尚更、教室で詮索するようなことしたくなかった」
 高野昴はそこで言葉を切った。その考察に対して私は
(よく見てるわ)
 と思った。高野昴は飲み物を一口飲んでから続けた。
「教室に居たくない気持ち、よく分かるよ。俺もそうだから」
「高野昴もそう、なの?」
 高野昴は超能力はないはず。仮にそうだったら私にはそれが解るから。
 私の問いに高野昴は苦笑しながら言った。
「集団でいるの、苦手でさ。それに俺は孤独を選んだから」
 その言葉は嘘じゃないと、心からの言葉だと私には解った。
「その場限りの人間関係って辟易するわよね。あの子はどこのグループに入ったとか」
 私はポツリと言った。
「そうだね。その表面上だけの付き合いで、その人の言動でどうしたって本心が透けてみえる」
 高野昴になにか言って欲しくて言ったわけではないけれど、その言葉に私は親近感を覚えた。それと同時に
(無口な印象があったけど、よく話すタイプなのかしら?)
 と思った。実際、教室にいる高野昴は授業で発言したり、誰かと話したりする姿はほとんど見たことがない。教室でも読書をしている姿を見ているから、読書好きであることは知っていた。
 私は超能力が理由で屋上で過ごす以外にも理由があった。
「集団で過ごすのも、集団行動も私は嫌い。女の子同士のグループはもっと嫌い」
 集団でいると、どう超能力をコントロールしていても「心の声」が聞こえてしまう。それ以上に、私は女の子同士のグループ行動が何より苦痛だった。心の声は女の子同士のグループでだとよく聞こえる傾向が強かった。
ーーキーンコーン、カーンコーン……。
 高野昴がなにか話そうとした瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが聞こえた。私と高野昴は立ち上がって屋上の扉へと向かった。先に出ようとした私に
「また話そう。ここで」
 と高野昴が私の背中に向かって言った。私は振り返らず
「そうね。一緒になることがあれば」
 と言った。