「何なのですか。帰るなり、あんな言い方をするなんて気分が悪いです。人を尻軽のように言うなんて……! …………でも確かに、はたから見たら私達の関係なんてわかりませんよね」
私室に戻ってすぐは憤慨していたものの、一人になって冷静に考えてみれば、杜人の言う通りだということに気づく。
「その気がないとはいえ、一応結婚した身で異性と仲良くしていたらあらぬ誤解をされても文句は言えませんよね。ましてや、私達は政略結婚。世間体が何よりも大事ですし、この結婚をよく思っていない輩にとっては格好の的になってしまいますし。お互いの国の象徴にならねばいけないのに……私はなんて浅慮だったのでしょうか」
自分を軽んじられているように感じてついカッとなってしまったが、あれは自分が悪かったと反省する。万が一国民に誤解されたら、やり玉にあげられるのは茜だ。それを防ぐという意味でも杜人は正しかった。
「きっと私のことを慮ってくださったのよね。ちゃんと杜人様に謝らないと」
茜はそう言って立ち上がり自室を出ると、杜人の部屋まで行く。行くまでの間に、何て切り出そうか、何て謝ろうかなどと考えながら部屋の近くに着くと、杜人の部屋の障子が開いていて中に杜人と女中がいるのが見えた。
何やら話している様子で、彼らの会話が終わるまでここで待つか、それとも出直したほうがよいかと逡巡していると、不意に「茜さんは……」と自分の名を呼び声が聞こえてくる。
(私の話……?)
不躾と思いつつも、気になって廊下の柱に隠れて聞き耳を立てる。杜人が自分のことをどう思っているのか本音が聞きたかったのだ。
「女性なのだから、男と比べたら劣っているだろう? 力では敵わないし。それなのに、わざわざ護衛という仕事を続ける必要があるのか疑問ではある」
(……え?)
全身の血の気が引くのがわかる。杜人はそんなこと思っていたのかと、茜はやるせない気持ちになった。
(仕事をしてもいいと表向きは快諾してくださっていても本音では反対されていたのですね。ということは、きっと他にも了承されたことも全て……。あぁ、なんて私は愚かなのだろう。そう思われていたとも知らずに仲良くできたらいいな、なんて。でも、そうですよね。杜人様も他の殿方と同じ。ただ私と関わるのが煩わしいから適当に許可してくださっただけで、これは政略結婚。期待した私がバカでした)
杜人は本当はいい人なのではないか、自分のことに理解があるのではないかと、薄らあった期待感が呆気なく崩れていく。
元々評判の悪い人なのに、どうして期待してしまったのだろうと、己の見る目のなさに失望した。
(杜人様がそのように考えていらっしゃるのなら、私も相応の態度で生活をしていきましょう。これはあくまで政略結婚なのですから)
そのつもりで結婚したのだ。今更気づくなんて恥ずかしいと思いながらも、胸に感じる痛み。
茜はそれに気づかないフリをしながら、踵を返して自室へと戻ってしまった。
話の続きがあることも知らずに。
私室に戻ってすぐは憤慨していたものの、一人になって冷静に考えてみれば、杜人の言う通りだということに気づく。
「その気がないとはいえ、一応結婚した身で異性と仲良くしていたらあらぬ誤解をされても文句は言えませんよね。ましてや、私達は政略結婚。世間体が何よりも大事ですし、この結婚をよく思っていない輩にとっては格好の的になってしまいますし。お互いの国の象徴にならねばいけないのに……私はなんて浅慮だったのでしょうか」
自分を軽んじられているように感じてついカッとなってしまったが、あれは自分が悪かったと反省する。万が一国民に誤解されたら、やり玉にあげられるのは茜だ。それを防ぐという意味でも杜人は正しかった。
「きっと私のことを慮ってくださったのよね。ちゃんと杜人様に謝らないと」
茜はそう言って立ち上がり自室を出ると、杜人の部屋まで行く。行くまでの間に、何て切り出そうか、何て謝ろうかなどと考えながら部屋の近くに着くと、杜人の部屋の障子が開いていて中に杜人と女中がいるのが見えた。
何やら話している様子で、彼らの会話が終わるまでここで待つか、それとも出直したほうがよいかと逡巡していると、不意に「茜さんは……」と自分の名を呼び声が聞こえてくる。
(私の話……?)
不躾と思いつつも、気になって廊下の柱に隠れて聞き耳を立てる。杜人が自分のことをどう思っているのか本音が聞きたかったのだ。
「女性なのだから、男と比べたら劣っているだろう? 力では敵わないし。それなのに、わざわざ護衛という仕事を続ける必要があるのか疑問ではある」
(……え?)
全身の血の気が引くのがわかる。杜人はそんなこと思っていたのかと、茜はやるせない気持ちになった。
(仕事をしてもいいと表向きは快諾してくださっていても本音では反対されていたのですね。ということは、きっと他にも了承されたことも全て……。あぁ、なんて私は愚かなのだろう。そう思われていたとも知らずに仲良くできたらいいな、なんて。でも、そうですよね。杜人様も他の殿方と同じ。ただ私と関わるのが煩わしいから適当に許可してくださっただけで、これは政略結婚。期待した私がバカでした)
杜人は本当はいい人なのではないか、自分のことに理解があるのではないかと、薄らあった期待感が呆気なく崩れていく。
元々評判の悪い人なのに、どうして期待してしまったのだろうと、己の見る目のなさに失望した。
(杜人様がそのように考えていらっしゃるのなら、私も相応の態度で生活をしていきましょう。これはあくまで政略結婚なのですから)
そのつもりで結婚したのだ。今更気づくなんて恥ずかしいと思いながらも、胸に感じる痛み。
茜はそれに気づかないフリをしながら、踵を返して自室へと戻ってしまった。
話の続きがあることも知らずに。



