東野宮茜は屈しません! 〜元敵国同士の和平結婚〜



(何やあれ)

 議会が始まり、討論をしている途中で茜の姿を見ると、何やら隣にいる男と仲睦まじそうにしていて、杜人はなぜか無性に腹が立った。

(ちょぉーーーーっと、うちの奥さんに近すぎひん?)

 茜が照れている表情をしているのがわかる。自分に見せる表情とはまた違った顔。それが他の男に向かっていると思うと、落ち着かなかった。

「杜人様、いかがなさいましたか? 何か不手際が」
「ちゃうちゃ……ではなくて、そういうわけではないので、気にしないでください」

 つい方言が出てしまって、慌てて標準語に直す。身内以外に方言を使うことなど滅多にない杜人がした失態に、西ノ宮の次席は驚きを隠せない様子だ。
 その反応にすら苛立ってしまい、杜人は自分でも理解できない感情に苛まれながらも、茜を視線で追うことをやめることができなかった。



「ただいま戻りまし……た……杜人様……?」
「おかえり。茜さん」

 帰るなり、玄関で待ち構えていた杜人に茜は驚く。しかも何やら不穏な雰囲気。靴を脱いでそれとなく杜人から距離をとるように離れるも、なぜか杜人は茜を追うように迫ってきた。

「な、な、何です?」
「議会で隣にいた男は誰ですか?」
「へ? 議会?」

 突然何を言われるかと思いきや、議会の話が出て茜は戸惑った。

「隣は兄だと思いますが」
「そっちやない。反対側の男や」
「反対側……?」

 言葉を反芻しながら思い返してみる。そこでようやく、一郎太のことを思い出した。

「あぁ、幼馴染みです。年もさほど変わらないので兄みたいな感じで」
「ふぅん。でも、随分と親しそうやったけど。兄妹というより男女関係のような……」
「まさか! 全然そんな関係ではありません! 元々親同士が仲が良く、生まれたときから一緒にいるからか家族みたいなものなので、距離が近くなりがちなだけでして……」
「さよか。でも、それを知らん人からしたら、人前であの近さははしたないと思われんちゃうかな? ……人妻の身分で」

 杜人が何に憤っているのかはわからないが、あまりにも冷たく棘のある言い方をされて、茜もカチンとなってくる。ただの幼馴染みだと弁明しているのに、穿った見方をされた上にちくちくと嫌味まで言われて、先程の議会での一件も相まってだんだんと腹が立ってきた。

「何なんです? 先程から。議会中に視線を感じると思ったらずっとそんなしょうもないことを考えていらしゃったんですか?」
「一応、世間体もあるからな。西ノ宮の当主の妻が他の男にうつつを抜かしてるなんて思われたら両家に害しかあらへんやんか」
「ですから、誤解だって申しているではありませんか! そのような偏見を持つのは下品ですっ!」
「そんなん、茜さんの事情知らん人からしたらどうでもええことやろ。それに、あんな楽しげに乳繰り合って、まともに仕事できひんやんか」
「ち……!? そんなことしていませんし、見当違いもいいところです! 仕事だって、そちらの無礼者の対応だってきちんと行いました! 杜人様につべこべ口を出される謂れはございません! ……失礼しますっ!!」

 茜は杜人を押し退けると、苛立ちながら自室へと戻っていく。
 それを追いかけるでもなく見送ると、杜人は何とも言えない表情をして雑に頭を搔くのだった。