東野宮茜は屈しません! 〜元敵国同士の和平結婚〜

 一人で寝所から抜け出し、早朝鍛錬を終えたあと湯浴みを済ませて再び寝所へ。未だに気持ちよさそうに寝ている杜人の顔を満喫したあと、茜は杜人の身体を優しく揺すった。

「おはようございます。杜人様、朝ですよ」
「うーん…………朝か。おはようさん。ふふ、やっぱり起きて一番最初に見るのが茜さんの顔なんはええなぁ」

 ふにゃっとした無防備な微笑みを向けられて、茜は胸がキュンとなる。
 かれこれ夫婦になってから一ヵ月以上経つというのに、杜人のこうした言動には未だに慣れなかった。

「もう、何をおっしゃっているのですか。とにかく早く起きてください」
「んー、いや、やっぱ起きられへん。愛しい人からの熱い接吻がないと起きたくても起きられへんわ〜」
「……杜人様?」
「早くしてくれへんと遅刻してまうなぁ……困ったなぁ……」

 わざとらしく言いながら、再び目を閉じて起きようとはしない杜人。こういうときに杜人は非常に頑固であることは一緒に生活しているうちに学んだ。なので、このまま放っておいたら確実に遅刻するのはわかりきっていた。

「…………んもう、仕方のない方ですね」

 そう言って茜から口を寄せれば、そのまま首に腕を回されて引き寄せられて口づけが深くなる。茜が「んー!」と杜人の腕の中で抗議すると、「……なぁ、今からあかん?」と吐息を含んだ色気たっぷりの声で囁かれた。

「だ、ダメです! 遅刻は許しません!」
「ちぇ〜。しゃあない、起きるか」

 渋々といった様子の杜人に対し、羞恥で顔が熱くなった茜は、このままではこの部屋を出られないとぱたぱたと手で顔を扇いだ。

「そうそう、茜さん。もう支度部屋には行きました?」
「支度部屋ですか? まだ今日は行ってませんが」
「なら、早よ行ってみて。いいもんあるから」

 杜人に促されて支度部屋へ。
 そこにあったものを見て茜は驚き、言葉を失うのだった。



「……それで、今日はどれもこれも新品なのか。全部一級品だよな、これ」

 茜の姿を司がまじまじと見る。
 というのも、茜の仕事着や装備品、装飾品に至るまで、全て新品に変わっていたからだ。

「実は先日、杜人様とちょっとした喧嘩をしまして。それで杜人様が私へのお詫びと私の危険が少しでも減るようにと配慮してくださって、一式全て新しいものにしてくださったのです」
「一式、全部……しかも特注か?」
「はい。全部私に合った仕様にしてくださっているそうで。もし不備があるようであればすぐに言うようにと。他にも欲しいものがあれば何でも言えとおっしゃっていただきますが恐れ多くて……」
「すごいな、お前。愛されているな」

 司から呆れるように言われて、茜は照れる。

「夫婦喧嘩は犬も食わないというが、喧嘩もするほど仲が深まっていたとは。……あれほど西ノ宮には屈しない、愛のない結婚は云々言っていたのにな」
「あ、あれは……過去の話です! あのときはそう思っていただけであって……」
「何だか、楽しそうなお話をされているようですね」
「っ! 杜人様っ」

 隣から聞き慣れた声がしてそちらを見れば、いつのまにか横に杜人がいて驚く。

「何の話してたん? そんな熟れた桃みたいな可愛い顔を僕以外に見せるのはあかんで」

 杜人に耳打ちされて、羞恥でさらに顔が熱くなる。すると、「もう、あかんって言ってるのに。さらに赤なってるやん」と笑われて、茜は居た堪れずに顔を手で覆った。

「もう耳元で言うのやめてくださいっ! 人前ですよ!?」
「夫婦なんやし、ええやろ?」
「ダメですっ! 破廉恥ですっ」
「何で? どこが破廉恥なん? 僕にはようわからんから教えてや」
「〜〜〜〜!!」

 肩を抱いてわざとらしく囁いてくる杜人。
 杜人から追撃に、茜は太刀打ちできずに耳まで真っ赤にすると「もう勘弁してください」と蚊の鳴くような声で白旗を上げた。

「お前もそんな顔をするのだな……いてっ」

 司が口をあんぐりとさせながらそう漏らせば、茜が足蹴にする。完璧な八つ当たりだ。

「ほんまに兄妹の仲がよろしいようで羨ましいわぁ」
「どこがですか。こうして昔から喧嘩ばかりで」
「お兄様が私を揶揄うのが悪いんですっ!」
「ほら、こうして突っかかってくるのですよ。困ったものです。距離が近すぎるのがいけないんでしょうかね」
「そんなら、僕の護衛に茜さんをお譲りいただけないでしょうか?」
「え!?」

 まさか杜人から護衛を頼まれるとは思わなくて面食らう茜。司もまた同様の反応だ。

「現状僕に護衛おらんし、茜さんと夫婦になったんやし、茜さんを公私共にもろてもええかなて。ダメですかね?」
「ダメということではありませんが……四六時中一緒だと息が詰まるのでは?」
「ちょっ! お兄様!!」
「大丈夫です。茜さんとなら、例えまた喧嘩したとしても乗り越えていけると思いますので」

 杜人ににっこりと微笑まれて、茜は言葉に詰まる。人前でも容赦ない誉め殺しに、今すぐ穴があったら入りたい気分だった。



 その後、東野宮で話し合いが行われ、茜は無事に杜人の護衛として働くことに。
 杜人の護衛は司の護衛よりも遥かに大変ではあったが、司が危惧していた喧嘩などもすることもなく、むしろさらに絆は深まった。
 そして二人の間には子どもがたくさん生まれ、東西の交流も盛んになり、東西併合は無事に完了。大和大帝国はますます発展していくのだった。