目の前にはまっすぐこちらを見つめてくる杜人。
平日であれば仕事の準備があるからと言い訳できるが、今日は休日のためそれはできず。
どうやってこの場を切り抜けようと考えてもいい答えは出てこなかった茜は、とにかくこの状況をどうにかしようと口を開いた。
「こちらに話したいことはありません」
突き放すように言えば、杜人が一瞬顔を顰める。
それがとても悲しげに見えて、なぜ杜人がそんな顔をするのか茜には理解できなかった。
「失礼します」
「待ってくれ」
この空気に耐えられなくて立ち上がりかけると、杜人に腕を掴まれる。びっくりして顔を上げれば、いつになく必死な顔の杜人がそこにいた。
「行かないでくれ。どうして避けるんや。僕が茜さんを気ぃ悪くさせてしまったのなら謝る。だから、お願いだから行かないで」
掴まれた腕が熱い。
切羽詰まったような声で言われて逃げ出すほど、茜も薄情ではなかった。
「……なぜ、そんなことをおっしゃるんです? 杜人様が私に執着する理由がわかりません。元々利害関係からの結婚だったではありませんか」
「初めはそうだったかもしれへん。でも、今は茜さんが可愛らしいと思うし、仕事をしている姿は凛々しいと思うし、いつ見ても美しくて素敵で、四六時中茜さんのことを考えてしまうほど、僕は茜さんのことが好きなんや!」
好きだと言われて、カッと頬が熱くなる。
けれど、すぐに「いやいや、これは建前でしょ。冷徹で無慈悲。モラハラ。性格破綻者。非常に狡猾で、表面上はニコニコしていながら婉曲に嫌味を言う男と世間から評価されている人が私に好意を持つだけでなくこんな形で伝えてくるなんてあり得ない」とぐらついた気持ちをすぐに切り替えた。
「それは嫌味ですか? どうせ本音では違うことを思っているのではないですか?」
「嫌味やあらへん。全部本音や。本音でなかったらわざわざこうして早朝から会いに来て直接伝えに来ぉへんやろ?」
「それは……そうかもしれない、ですけど」
頭の中がこんがらがる。
(もしかして……本当に……杜人様は私のこと……)
自意識過剰なのではないかと思う。
けれど、杜人が嘘をついているようにも思えなくて困惑する。
そんな、だって、でも、と言い訳して否定してそれをまた否定してと感情がぐちゃぐちゃになった。
「杜人様は、私のことが……好きなのですか……?」
自分でもバカなことを聞いていると思う。でも、他に聞きようがなかった。
「そうやで。茜さんのことが好きや。だから誤解されてたら嫌やし、避けられるのも嫌なんや。別に、僕の片想いでもええ。そりゃ両想いになれたら一番ええけど。とにかく、仮初の結婚でも一緒におりたいんや」
まっすぐ見つめられる。
その瞳は真剣そのもので、茜は思わず生唾を飲み込んだ。
「わ、私は……私も、杜人様のこと……お慕いしてます、けど……」
消え入るような声で俯きながら言う。
それは茜の本心だった。
ずっとカッコいいと優しい人だと思っていたけれど、婚前にあれだけ拒絶していた手前、茜自身はこの気持ちに気づかないフリをしていた。
けれど、想いを告げられた今ならと正直に告白する。
すると、勢いよくガバリと抱きしめられたかと思えばそのままぎゅうぎゅうに力強く締めつけられた。
「ちょ、ま……杜人様……!?」
「嬉しい! ほんまに僕のこと好きなん?」
「ですから、先程申した通りで……」
「もう一回ちゃんと言うて? 近くで聞きたい」
「っ! えっと、杜人様のこと……お慕いしてま……んぅ!」
言い終わる前に唇が塞がれる。
突然のことに茜は目を白黒させた。
「……っ! 杜人様!? 何をなさるんですかっ」
「両想いなんやからええやろ? それともあかんかった?」
申し訳なさそうにしょんぼりとした表情を見せる杜人。それがなんだか可愛らしくて、茜の胸がキュンと甘く疼いた。
「ダメ、ではないですけど……性急すぎると言いますか……もう少し心構えをさせていただかないと、こちらも困ると言いますか……」
「よし。なら、事前申告すればええんやね。茜さん、接吻させて」
「え。またですか!?」
「そらそうやろ。想いが通じ合ったなら、いくらでもしたいやんか」
そのまま耳元で「な。ええやろ? しよ」と猫撫で声でおねだりされたら茜は抗えず。小さな声で「ちょっとだけですよ」と許可を出せば再び口づけられてしまった。
「茜さん……好きや……」
唇が触れながら吐息混じりに言われて、どうしたらよいかわからずにギュッと目を瞑る。
すると、ふっと笑い声が聞こえたと思えば、そのまま押し倒された。
「え? え? 杜人様……?」
「今日は休日だからゆっくりしてもええやろ?」
「で、でも、福が戻ってきたら」
「あの女中さんは空気読むの上手やから大丈夫。茜さんは心配せんで、僕に身を任せて」
優しく、ゆっくりと覆い被さってくる杜人に、茜は羞恥で真っ赤になりながらも大人しく受け入れるのだった。
平日であれば仕事の準備があるからと言い訳できるが、今日は休日のためそれはできず。
どうやってこの場を切り抜けようと考えてもいい答えは出てこなかった茜は、とにかくこの状況をどうにかしようと口を開いた。
「こちらに話したいことはありません」
突き放すように言えば、杜人が一瞬顔を顰める。
それがとても悲しげに見えて、なぜ杜人がそんな顔をするのか茜には理解できなかった。
「失礼します」
「待ってくれ」
この空気に耐えられなくて立ち上がりかけると、杜人に腕を掴まれる。びっくりして顔を上げれば、いつになく必死な顔の杜人がそこにいた。
「行かないでくれ。どうして避けるんや。僕が茜さんを気ぃ悪くさせてしまったのなら謝る。だから、お願いだから行かないで」
掴まれた腕が熱い。
切羽詰まったような声で言われて逃げ出すほど、茜も薄情ではなかった。
「……なぜ、そんなことをおっしゃるんです? 杜人様が私に執着する理由がわかりません。元々利害関係からの結婚だったではありませんか」
「初めはそうだったかもしれへん。でも、今は茜さんが可愛らしいと思うし、仕事をしている姿は凛々しいと思うし、いつ見ても美しくて素敵で、四六時中茜さんのことを考えてしまうほど、僕は茜さんのことが好きなんや!」
好きだと言われて、カッと頬が熱くなる。
けれど、すぐに「いやいや、これは建前でしょ。冷徹で無慈悲。モラハラ。性格破綻者。非常に狡猾で、表面上はニコニコしていながら婉曲に嫌味を言う男と世間から評価されている人が私に好意を持つだけでなくこんな形で伝えてくるなんてあり得ない」とぐらついた気持ちをすぐに切り替えた。
「それは嫌味ですか? どうせ本音では違うことを思っているのではないですか?」
「嫌味やあらへん。全部本音や。本音でなかったらわざわざこうして早朝から会いに来て直接伝えに来ぉへんやろ?」
「それは……そうかもしれない、ですけど」
頭の中がこんがらがる。
(もしかして……本当に……杜人様は私のこと……)
自意識過剰なのではないかと思う。
けれど、杜人が嘘をついているようにも思えなくて困惑する。
そんな、だって、でも、と言い訳して否定してそれをまた否定してと感情がぐちゃぐちゃになった。
「杜人様は、私のことが……好きなのですか……?」
自分でもバカなことを聞いていると思う。でも、他に聞きようがなかった。
「そうやで。茜さんのことが好きや。だから誤解されてたら嫌やし、避けられるのも嫌なんや。別に、僕の片想いでもええ。そりゃ両想いになれたら一番ええけど。とにかく、仮初の結婚でも一緒におりたいんや」
まっすぐ見つめられる。
その瞳は真剣そのもので、茜は思わず生唾を飲み込んだ。
「わ、私は……私も、杜人様のこと……お慕いしてます、けど……」
消え入るような声で俯きながら言う。
それは茜の本心だった。
ずっとカッコいいと優しい人だと思っていたけれど、婚前にあれだけ拒絶していた手前、茜自身はこの気持ちに気づかないフリをしていた。
けれど、想いを告げられた今ならと正直に告白する。
すると、勢いよくガバリと抱きしめられたかと思えばそのままぎゅうぎゅうに力強く締めつけられた。
「ちょ、ま……杜人様……!?」
「嬉しい! ほんまに僕のこと好きなん?」
「ですから、先程申した通りで……」
「もう一回ちゃんと言うて? 近くで聞きたい」
「っ! えっと、杜人様のこと……お慕いしてま……んぅ!」
言い終わる前に唇が塞がれる。
突然のことに茜は目を白黒させた。
「……っ! 杜人様!? 何をなさるんですかっ」
「両想いなんやからええやろ? それともあかんかった?」
申し訳なさそうにしょんぼりとした表情を見せる杜人。それがなんだか可愛らしくて、茜の胸がキュンと甘く疼いた。
「ダメ、ではないですけど……性急すぎると言いますか……もう少し心構えをさせていただかないと、こちらも困ると言いますか……」
「よし。なら、事前申告すればええんやね。茜さん、接吻させて」
「え。またですか!?」
「そらそうやろ。想いが通じ合ったなら、いくらでもしたいやんか」
そのまま耳元で「な。ええやろ? しよ」と猫撫で声でおねだりされたら茜は抗えず。小さな声で「ちょっとだけですよ」と許可を出せば再び口づけられてしまった。
「茜さん……好きや……」
唇が触れながら吐息混じりに言われて、どうしたらよいかわからずにギュッと目を瞑る。
すると、ふっと笑い声が聞こえたと思えば、そのまま押し倒された。
「え? え? 杜人様……?」
「今日は休日だからゆっくりしてもええやろ?」
「で、でも、福が戻ってきたら」
「あの女中さんは空気読むの上手やから大丈夫。茜さんは心配せんで、僕に身を任せて」
優しく、ゆっくりと覆い被さってくる杜人に、茜は羞恥で真っ赤になりながらも大人しく受け入れるのだった。



