◆
茜と喧嘩した。
杜人としては喧嘩などするつもりなどなかった。むしろ喧嘩になるほどの関係性を誰かと今まで築いたことがなく、自分でもなぜこんなことになってしまったのか理解ができていなかった。
だからつい、部屋の清掃に来ていた女中に茜とのことを愚痴ってしまった。人間嫌いな杜人は今までそんなことしたことがなかったのに、誰かに聞いてもらわずにはいられなかったのだ。
「不躾ながら申し上げますと、それは……茜様を大事に思っているからこそ、茜様に危ない目に遭って欲しくないとお思いになられているからではありませんか?」
女中からの思いもよらない指摘をされ、目を見張る。
「は?」
「あ、すみません。差し出がましい真似を」
「いや、そうではなくて。なぜ、そんな風に思うのかと……」
言いながら、自分でも戸惑う。なぜなら図星だったからだ。
色々と難癖をつけて愚痴っていた根底に、自分の醜い嫉妬と彼女を慮る気持ちがないまぜになってグチャグチャに難しく考えていることに今更になって気づいた。
「もしかしたら、杜人様はお気づきになっていらっしゃらないかもしれませんが、ここのところお話になる話題が茜様のことばかりでいらっしゃいますよ。それから、茜様を見る目が優しいと言いますか、茜様とご結婚されてから以前よりも杜人様の雰囲気が柔和になったような気がします」
「……そうなのか」
自分では全く気づいていなかったことを次々と指摘されて困惑するも、思い返してみても確かにその通りな気がして反論できない。
ここのところ常に茜のことを考えているし、無意識に茜の姿を探している自分に気がついて、指摘されるまでなぜ気づかなかったのだろうかと己の鈍感さに驚いた。
「今回の結婚は政略結婚かもしれませんが、我々使用人としては、お二人に国交の象徴としてではなく、本来の結婚のように末永く仲良くしていただけましたら嬉しいと思っております」
「そうか。わかった」
まさか周りからそんなことを思われているとは思わず、腑抜けた返事をしてしまう。
けれど、女中はそれを指摘することなく、ぺこりと頭を下げると「では、私は仕事があるので失礼します」と行ってしまった。
「……僕は、茜さんのことが好きなのか」
初めての感情。
これが人を好きになるということかとどこか他人事のように思いながらも、茜に他の人とは違った感情を抱いているのは間違いなかった。
「だけど、仲良くってどうすればいいんや」
気づいたはいいが、今度は別の壁にぶつかる。
今まで人と親交などしてこなかった杜人にとって、誰かと仲良くなるというのは未知である。二十一才にもなってこんなことを悩むなんてと思うも、茜ともっと仲良くなりたかった。
そのためにはどうすればいいか、賢い杜人でもすぐに答えは出せそうにはない。
だが、茜のことを考える時間は悪くないと思える自分がいて、思っているよりも彼女のことが好きなのだと自覚せざるをえないのだった。
茜と喧嘩した。
杜人としては喧嘩などするつもりなどなかった。むしろ喧嘩になるほどの関係性を誰かと今まで築いたことがなく、自分でもなぜこんなことになってしまったのか理解ができていなかった。
だからつい、部屋の清掃に来ていた女中に茜とのことを愚痴ってしまった。人間嫌いな杜人は今までそんなことしたことがなかったのに、誰かに聞いてもらわずにはいられなかったのだ。
「不躾ながら申し上げますと、それは……茜様を大事に思っているからこそ、茜様に危ない目に遭って欲しくないとお思いになられているからではありませんか?」
女中からの思いもよらない指摘をされ、目を見張る。
「は?」
「あ、すみません。差し出がましい真似を」
「いや、そうではなくて。なぜ、そんな風に思うのかと……」
言いながら、自分でも戸惑う。なぜなら図星だったからだ。
色々と難癖をつけて愚痴っていた根底に、自分の醜い嫉妬と彼女を慮る気持ちがないまぜになってグチャグチャに難しく考えていることに今更になって気づいた。
「もしかしたら、杜人様はお気づきになっていらっしゃらないかもしれませんが、ここのところお話になる話題が茜様のことばかりでいらっしゃいますよ。それから、茜様を見る目が優しいと言いますか、茜様とご結婚されてから以前よりも杜人様の雰囲気が柔和になったような気がします」
「……そうなのか」
自分では全く気づいていなかったことを次々と指摘されて困惑するも、思い返してみても確かにその通りな気がして反論できない。
ここのところ常に茜のことを考えているし、無意識に茜の姿を探している自分に気がついて、指摘されるまでなぜ気づかなかったのだろうかと己の鈍感さに驚いた。
「今回の結婚は政略結婚かもしれませんが、我々使用人としては、お二人に国交の象徴としてではなく、本来の結婚のように末永く仲良くしていただけましたら嬉しいと思っております」
「そうか。わかった」
まさか周りからそんなことを思われているとは思わず、腑抜けた返事をしてしまう。
けれど、女中はそれを指摘することなく、ぺこりと頭を下げると「では、私は仕事があるので失礼します」と行ってしまった。
「……僕は、茜さんのことが好きなのか」
初めての感情。
これが人を好きになるということかとどこか他人事のように思いながらも、茜に他の人とは違った感情を抱いているのは間違いなかった。
「だけど、仲良くってどうすればいいんや」
気づいたはいいが、今度は別の壁にぶつかる。
今まで人と親交などしてこなかった杜人にとって、誰かと仲良くなるというのは未知である。二十一才にもなってこんなことを悩むなんてと思うも、茜ともっと仲良くなりたかった。
そのためにはどうすればいいか、賢い杜人でもすぐに答えは出せそうにはない。
だが、茜のことを考える時間は悪くないと思える自分がいて、思っているよりも彼女のことが好きなのだと自覚せざるをえないのだった。



