東野宮茜は屈しません! 〜元敵国同士の和平結婚〜

東野宮茜(ひがしのみやあかね)は屈しません!!」

 そう高らかに宣言する茜。
 けれど、周りにいた使用人達は茜の大きな声に一瞬だけギョッとするも、そんな主張など気にするそぶりも見せずに、茜の嫁入り支度を続けている。

「ちょ、聞いてます!?」
「はいはい。聞いてますよ。とりあえず、茜様の主張はよぉくわかりましたが、それはそれ。これはこれです。いい加減お諦めになって大人しく嫁がれてください」
「諦めきれません! 何で私が西ノ宮家になど……! 酷くないですか!? 横暴ですっ!」
「そりゃ政略結婚ですからね。でも、まだマシなのではないですか? 先方は全て茜様のご希望通りにされるとおっしゃっているのですよ?」
「そ、そうなのだけど! そうなのだけど!! でも、やっぱり結婚は愛があってしたほうが!」
「そういうところは十八歳と言えど乙女ですよね、茜様」
「う、う、うるさいです! とにかく、政略結婚なんて嫌ですっ! そんな圧力に私は屈しません!!」
「はいはい。これから化粧するので少し黙っていてくださいね〜」

 年嵩の女中に問答無用で顔を押さえられて茜は黙り込む。茜の気持ちとは裏腹に、だんだんと仕上がっていく嫁入り支度。普段着ている護衛服とは全く違う白無垢姿。いくら茜が喚こうとも、使用人達は素知らぬフリをして着々と準備は整っていく。

(どうして、政略結婚なんか……もう、お父様のバカ)

 声に出すこともできず、茜は心中で吐き出す。バカみたいに騒いでいるが、この結婚が今更覆らないことくらい茜自身もわかっていた。
 それでも、茜の心は不安でいっぱいで、口にでも出していないと心が潰れそうで。
 精一杯最後まで抗いたくて子供みたいと思われようとも拒絶の意思を示し続けていた。

(西ノ宮杜人(にしのみやもりと)……一体どんな方なのでしょうか)

 まだ見ぬ未来の夫。どんな容姿でどんな性格でどんな声かもわからぬ相手に、茜は不安を抱くのだった。


 ◇


 ここ、大和大帝国では旧い時代から代々西ノ宮家と東野宮家、東西二つの国が勢力争いをしていた。
 しかし、数年前に起きた立て続けに起きた地震や大洪水などの大災害によって東西それぞれに大きな被害が発生。それに付随して各地の産業や農業、医療など多岐にわたって影響を受けて人々に甚大な被害が出てしまい両国共に大打撃を負ってしまった。
 人口も減り、国力も減り、このままでは他国からの侵攻があった際に防ぎきれなくなると判断した大和大帝国は、東西で争っている場合ではないと統合に向けて何度も話し合いを行い、今回東西統合に踏み切った。
 その和平の象徴として西の国の王家である西ノ宮家から皇太子である西ノ宮杜人、東の国の王家である東野宮家から第一皇女である東野宮茜が選出され、この度結婚することになったのだった。

「へぇ、馬子にも衣装だな」
「お兄様、黙って」
「そう怒るなって。美人だって言ってるんだぜ?」
「その言い方、嬉しくないです」

 いよいよ新婦の準備が整い、親族の控えの間。
 本日の結婚を機に隠居した父に代わって茜の兄で東野宮の新たな国王である司が茜の様子を見ながら茶化した。それに不貞腐れる茜。

「でも、この上ない結婚じゃないか。年の差もさほどなく三つ違いでジジイに嫁ぐわけでもなし。茜の希望通り、資産は使い放題。寝室は別。子供も作らず、夫婦の営みもなし。仕事も現状維持。お互い干渉し合わないでよいなんて、こんな破格の条件そうそうないぞ」
「冗談で言ったら全部受け入れられてしまっただけです」
「それだけ度量があるということだろ?」
「そうかもしれないですけど、それだけ私に無関心だということでは? 嫌われるために出した条件なのに、全部受け入れてくださるなんておかしいですっ」
「お前、結構面倒くさい性格してるな」

 司に揶揄されて、さらにムクれる茜。
 実際わざと無理難題を言って婚約破棄へと持ち込もうと思っていたのに、なぜか想定とは違い、西ノ宮は全部受け入れるとの返答。
 茜は戸惑いつつも、さらに悪条件をつけ足したのにそれすらも認められてしまって茜のほうがお手上げ状態になってしまったのだ。

「とにかく、あくまでこの婚姻は形ばかり。多少一緒に住むなどの生活の制限はあるかもしれないが、基本は何も変わらない。だからそんなに気負うな」
「他人事だと思って適当なことを」
「実際、他人事みたいなものだしな。でも、本当悪くない話だと思うぞ。悪い話だったら、お前に激甘な父様が承知しなかったはずだし」
「お父様が私に甘いっておっしゃいますけど、でも結局はこの結婚をお認めになっていますし」
「そりゃ、お互いに悪い話ではないからな。まぁ、離縁は難しいかもしれないが、ほぼ家庭内別居みたいなものだし、つらくなったらいつでもうちに帰ってこい。居場所はちゃんと用意してやるから」
「そうですね。ありがとうございます」

 そう言うと、ぽんぽんと司に頭を撫でられる。
 なんだかんだ言いつつも、司は茜に優しかった。

「じゃあ、俺は会場に先に行っているから。頑張れよ」
「頑張りたくないです」
「はいはい。じゃあな」

 適当にあしらって部屋を出ていく司。その背中を疎ましげに見送る茜。

「茜様。どうぞこちらへ」
「…………はい」

 まだ逃げ出したい気持ちはある。
 けれど、逃げ出したあとのことを考えると、人一倍責任感の強い茜はそんなことできなかった。

(仕方ありません。行きますか)

 茜は腹を括ると、新郎新婦の控え室へと向かうのだった。