博士、私はずっと後悔ばかりして人生を生きてる。
今もそう。
もう少し早くに彼に辿り着いて、
話なんて聞かずに
止まる恐れのある水道なんて捻らずに
今みたいに歩き出せていたら、
きっと彼のことを助けてあげられた。
博士のことも、きっと助けられた。
柵が立てられた道を進んだ先、どこまでも続いているような草原の途中に、人がいるか分からない一軒家がちらほら見える。
その家を避けて、ある大木の下に着くと、抱えていた男性を下ろした。
男性にもう息はなかったが、涼しく安全な場所へ避難させた。
「あなたとはここでさよならね」
小さく風が吹く。結構距離を歩いてきたつもりだ。
でも、一度もすれ違わなかった。
「もう他に……生きてる人は……」
いるの?
そう言いかけて、口をつぐんだ。
「おい」
声がしてそっと振り向く。
そこに小さな男の子がいた。
「何してるんだ」
怪訝そうな顔をしている。
「あなたは、男性?」
「は?」
男の子は私の問いかけに一歩ひく。
逃げる気はない様子だけど。
「さなかを知ってるのか?」
「さなか?」
「その男性に何をしたんだ?」
指を指した先を見つめて、先ほど下ろした男性に視線を落とす。
「お話していたら、動かなくなってしまって」
「お話?」
「娘さんと奥さんを亡くしたこと、この世界のこと、私はできれば彼ともう少しお話したかったです」
「さなかと?」
「この方のお名前は存じ上げないのですが、昔施設で働いていたと言っていました。この方の働いていた施設にいた博士は私の大切な人で、博士のことをもっと教えてもらいたかった」
男の子はきょとんとした。
「東谷博士とも知り合いなんだな」
男の子は私の側にきた。
「悪い人じゃなさそうだな」
「え? 私?」
「俺、輝久。お前の名前は?」
「アイリス」
「そうか。座って話せる?」
「はい」
先に男の子が足を伸ばして座り、隣をぽんぽんと叩き、私を呼ぶ。
私はちょこりと正座で座った。
「世界ってさ、何でこんな荒れたんだろうな」
「え?」
荒れた?
どういうことかと眉を寄せると、彼は怪訝な顔をした。
「え、まさかこの世界が荒れてないとでもいうつもり?」
私は少し悩み、口を開く。
「多分、世界のことよく知らない」
「え? アイリスは箱入り娘なのか?」
「私は箱に入ってない」
「いや、違くて」
私が首をかしげると、彼はやはり表情を変えない。
「教えてくれないかな、この世界のこと」
「え?」
「輝久くんは知ってるんでしょ? この世界のこと」
彼は何故か少し迷ったあとで、こくんと頷く。
そして空を見上げた。
「昔はね、水道を捻れば絶対に水は出た。畑もあって作物も育って食べ物に困ることはなかった」


