塩対応のタイムリーパーは、今日も俺を救えない?

頬を包み込む御子柴の掌から、驚くほどの熱が俺の肌へと伝わってくる。

その指先はわずかに震えていて、四十二回もの地獄を生き抜いてきたタイムリーパーの強固な意志の裏にある、剥き出しの脆(もろ)さを何よりも雄弁に物語っていた。いつもなら、他人からこれほど至近距離で触れられれば、俺は間違いなく不快感を露わにしてその手を払い除けていただろう。他人に自分の領域を踏み荒らされるのは、俺の平穏な日常において最も忌避すべきことだったからだ。

なのに、今の俺は、この御子柴廻という男の執着に満ちた熱に、どうしようもない心地よさを感じていた。あいつの指先が俺の髪をそっと掻き分け、耳の後ろの熱を帯びた肌に触れるたび、脳の奥がとろりと融解していくような錯覚に囚われる。

「……廻」

もう一度、その名前を唇から零すと、御子柴の瞳が大きく揺れた。
あいつは限界まで近づいていた顔をさらに数ミリだけ詰め、俺の唇のすぐ目の前で、切迫した吐息を漏らした。ガラスの天井から降り注ぐ夕暮れの金光が、俺たちの影を一つに溶かし、古い温室のむせるような緑の匂いが、二人の距離をさらに狂わせていく。

「薄葉……お前、自分が何を言っているのか、本当に分かっているのか」

「分かってるよ。お前が俺を死なせないために四十二回も時間を巻き戻したことも、そのせいで俺に対して頭がおかしくなるほどの執着を抱えてることも、全部」

俺はふっと目を細め、あいつの首元に回した両手に少しだけ力を込めた。制服の襟元から覗くあいつの肌が、俺の指先が触れるたびに小さく粟立つのが分かる。

「お前が俺をそんな目で見るなら、俺だって相応の覚悟をしなきゃいけないだろ。四十三回目のこの世界で、俺はお前に命ごと乗っかるって決めたんだ。だから……もう今更、引き返すなんて選択肢は無いぞ」

俺の言葉が合図だった。
御子柴は小さく喉を鳴らすと、堪えきれなくなったように、その薄い唇を俺の唇へと重ねてきた。

重なった唇は、驚くほど柔らかく、そして熱かった。
あいつはまるで、俺という存在が本当にここに生きているのかを確かめるように、何度も、何度も角度を変えて深く貪るように唇を押し付けてくる。触れ合う部分から、あいつの張り詰めていた感情が一気に流れ込んでくるようで、俺の背筋を激しい痺れが駆け抜けた。呼吸をするのも忘れるほどの深い口づけの中で、俺の心臓はドラムのように激しく脈打ち、温室の熱気すら忘れるほどの熱狂が全身を支配していく。

「ん……、ふ……っ」

微かな甘い鼻声が俺の喉から漏れると、御子柴はそれを合図に、さらに俺の身体を強く抱きすくめてきた。作業台に突かれていたあいつの手が俺の腰へと回り、折れそうなほどの力で俺の身体を引き寄せる。隙間なく密着した二人の身体からは、お互いの激しい鼓動がダイレクトに伝わり合っていた。

どれほどの時間が経っただろうか。ようやく唇が離れた時、二人の間には細い銀の糸が微かにきらめき、すぐに温室の熱気に溶けて消えた。
御子柴の顔は、今まで見たこともないほど真っ赤に染まっており、その切れ上がった瞳は完全に潤んで、情欲と愛惜に濡れていた。いつも教室の隅で氷のように冷たい視線を振りまいていたあの男が、今、俺の腕の中でこれほどまでに乱れ、熱く疼いている。その事実に、俺の男としての独占欲がどうしようもなく満たされていくのを感じた。

「……はぁ、薄葉、お前……本当に、ずるい」

御子柴は俺の肩に額を預け、荒い息を吐き出しながら絞り出すように呟いた。あいつの髪が俺の首元をチクチクと刺すのが、妙に愛おしい。

「ずるいのはお前だろ。そんな重すぎる愛をぶつけておいて、今更被害者ぶるなよ」

俺は苦笑しながら、あいつの背中を優しくポンポンと叩いた。頑なに強がっていたタイムリーパーの身体が、俺の腕の中で少しずつ弛緩していくのが分かって、胸の奥が甘痒い温かさで満たされていく。

「……なぁ、廻。作戦の続き、やるぞ。当日のランダム行動、チャイムの瞬間の窓からの飛び降りの次はどうする?」

俺がいつものトーンを取り戻して尋ねると、御子柴は俺の肩に顔を埋めたまま、くぐもった声で返してきた。

「……窓から飛び降りた後、中庭でお前を抱きかかえたまま、校門とは逆の旧校舎の裏山へ向かう。そこなら、過去のどのループでもお前が立ち入ったことのない完全な未開拓エリアだ。世界が罠を用意する暇を与えない」

「へえ、裏山か。いいね、楽しそうじゃん。お前と二人でサバイバルか?」

「ふざけるな。俺は本気でお前を守るために言っているんだ」

御子柴がようやく顔を上げ、少しだけいつもの不機嫌そうな目付きで俺を睨んだ。けれど、その頬にはまだ色濃く赤みが残っており、全く威厳がない。俺はそんなあいつの顔が愛おしくてたまらなくなり、あえてあいつの額に自分の額をコツンとぶつけた。

「分かってるよ。お前が本気なのも、俺のことが大好きなのもな」

「っ……! お前、本当にそういうことを平気で……!」

言い返せずにまた耳の後ろまで真っ赤にする御子柴を見て、俺は心の底から笑った。
四十二回の絶望。それは確かに恐ろしい呪いだ。けれど、四十三回目のこの世界で、俺たちはその呪いを、二人だけの甘やかな絆へと変えていくことができる。

手帳を開き、新しいランダムルートを書き込んでいく俺たちの指先は、今度は離れることなく、しっかりと互いの体温を分け合うように触れ合っていた。運命の日まであと四日。世界がどれほどの罠を用意していようとも、俺はこの隣にいる不器用な相棒と共に、そのすべての死亡フラグを叩き折って生き残ってやる。そう強く心に誓いながら、俺は隣の廻に向かって、優しく微笑みかけた。