塩対応のタイムリーパーは、今日も俺を救えない?

意識が途切れる直前、耳に残ったのは、金属が激しく軋む音と、誰かの怒鳴り声だった。

(ああ、最悪だ……。今日の晩ご飯、カレーって言ってたのにな)

それが、俺――薄葉 綴(うすば つづり)の人生の終わりだった。 交差点に突っ込んできた、ブレーキの壊れた大型トラック。 避ける暇なんて、一秒もなかった。

はず、だった。

「――っは、あ、げほっ、……くそ、またか……!」

激しい耳鳴りと、強烈な過呼吸の音で目が覚めた。

痛いほどに眩しい西日。 生温いエアコンの風。

見覚えのある教室の、後ろから二番目の窓際。

俺は、自分の机に突伏していた。

慌てて胸に手を当てると、心臓はうるさいくらいにドクドクと脈打っている。 服に血はついていない。 カレンダーに目をやると、日付は「七月十三日」。

トラックに撥ねられる、ちょうど一週間前の放課後だった。

「おい」

頭上から、冷え切った、だけどひどく掠れた声が降ってくる。

見上げると、そこにはクラスメイトの御子柴 廻(みこしば めぐる)が立っていた。

いつも通りの、愛想の欠片もない仏頂面。 だが、その顔は信じられないほど真っ青で、額からは大粒の汗が流れている。 制服の膝のあたりは、なぜか派手に泥で汚れていた。

御子柴は、怯えたように見開かれた俺の目をじっと見下ろし、それから酷く苦々しそうに、ぽつりと言った。

「……どけ。そこ、俺の通路。邪魔だ」

「え……?」

いつもなら「なんだこいつ」とイラつくだけの塩対応。

だけど、今の俺には分かってしまった。

御子柴のローファーの底が、あり得ないほどボロボロに擦り切れていることに。 そして彼の手が、かすかに震えていることに。

(待て。こいつ……今、走ってきたのか? どこから?)

俺の頭の中に、トラックが突っ込んできた瞬間の記憶が蘇る。 あの時、スローモーションになる視界の端で、必死にこちらへ手を伸ばし、何かを叫んでいた男の姿が。

あれは、間違いなく――。

「御子柴、お前……」

「……何。用がないなら話しかけるな」

ふいっと顔を背け、御子柴は自分の席にカバンを叩きつけるように置いた。

その耳の後ろが、夕日のせいだけではなく、ほんのりと赤くなっているのを、俺は見逃さなかった。