脇役巫女の契約結婚

 それからの日々はあっという間に過ぎていった。

 美弥子は本来の予定通りあっさりと巫女を辞め、天岸家で過ごすことになった。
 離婚することが前提であるためか婚儀は必要最低限のものを淡々と済ませるだけだったが、桐島家から出ていけるのであればなんだって良かった。

 天岸家へ引っ越す当日、彼はわざわざ迎えに来てくれたが使用人からは相手にされず誰も身支度を手伝ってくれない美弥子の現状を見て

「礼儀のなっていない使用人だな。さっさと我が家へ戻るぞ」

 と、一蹴してくれたのはなんだか心が救われた気がした。

 契約結婚を進めるにあたり気づいたことだが、要は意外と口が悪い。
 皆の前では初対面の時のように優しい王子様のような顔をするが、裏では悪態をついている。
 素顔を見せてくれているということは心を許してくれていると思っても良いのだろうが、半年限りの関係なのだから、それで喜ぶのはなんだか虚しい気がしてやめた。
 
 そうしてあっという間に美弥子は天岸美弥子となったが、この時代の結婚としては異例なほどあっさりしている結婚になった。
 天岸家の方は納得しているのかと思ったが、陰陽道の家系である天岸家にとっては半年後の儀式の方が重要であるそうで、特に咎められるようなこともなかった。
 一方で両親からの連絡はほとんどなく事務的な手続き以外は簡単な手紙だけだった。
 その様子を見て要は美弥子が出ていきたい理由をなんとなく察したようだったが、特に触れてくることはしなかった。

「俺と君は夫婦だが、形だけのものだ。夜伽も必要ない。必要最低限俺に触れないでくれ。俺は他人に触れられるのが嫌いなんだ」
「はい。心得ております」

 新婚だと言うのに今日も別々の部屋で寝る。
 要のご両親は本邸の屋敷で暮らしており、駐屯地に近い玻璃坂のこの屋敷には要しかいない。
 使用人の数も少人数のおかげで、仮面夫婦生活も特段困るようなことはなかった。

 ぴしゃりと襖を閉じて、要は隣の部屋へ消えていく。
 今日は珍しく早く帰ってきたが、このところ激務が続いているようで疲れている様子だ。
 せめて夜の間だけでも心休まるように、物音を立てないよう慎重に布団に潜り込んだ。