脇役巫女の契約結婚

「俺が君と結婚するのは、家督継承のためだ。それが終わり次第、離縁してもらう。 期間は半年間、その間互いに互いを愛さないこと、離縁後は十分な慰謝料を払うことを約束する。どうか、この契約に応じてくれないだろうか」

 数刻後、美弥子を天岸家に連れてきた要は、打って変わって淡々とそう言い放った。

「青井と婚約関係にあったのなら、君も知っているだろう。陰陽道の家系では、家督継承の儀において巫女の血を必要とする家があると」
「はい。巫女の陰の血と陰陽師の陽の血を混ぜ合わせ、神前で血の契約を行うことで認められると聞いています」
「我が天岸家も同様に、巫女の血を必要としている。君には半年間、お飾りの妻を演じて欲しい。少なくとも、青井家より丁重にもてなすことは約束する。君の生活には不自由はさせない」
「そう、でしたか……」

 やはり、世の中そう甘くはないようだった。

(わざわざ悪評のある私に声をかけたのはおそらく、私が婚約者を失ったばかりで断れる状況にないと踏んだからね……)

 巫女は数多くいる中で、自身の部下が捨てた女を拾いに来たのはそうだとしか思えない。
 美弥子は静かに落胆を隠し、笑顔を作り出す。
 
「では、一つ条件があります」
「言っておくが、俺に夫としての役割を求められても応えられない。天岸家の権力を欲したとしても、ある程度なら融通は効かせられるが」
「そんなものは結構です」
「……なんだと?」

 要はわずかに目を見開く。
 先程まで向けていた美弥子を見定めるような視線が、徐々に揺らぎ始めた。
 きっと自分の権力にすがりついてくるだろうと思ったのだろう。
 今の美弥子には、愛も権力も必要ない。
 
「それよりも半年後、実家に戻らず帝都で一人暮らしが出来るだけの資金をください。それを約束してくださるのなら、喜んで妻を演じましょう」

 そう言い放った美弥子を前に、要は唖然としていた。

「……実家に帰りたくないのか? 君の家は裕福だと聞いているが」
「居場所のない家に帰る理由はありません。青井さんとの婚約の話の顛末を知っているのでしょう? 他人に振り回されるのはもう疲れたのです」

 美弥子から事情を聞き出そうとする要を前に、美弥子は毅然と言い放つ。
 同情を誘うような真似は不要だ。
 契約を持ちかけられたのだから、美弥子がすべきことは自身の条件をきっちりと伝えるまで。
 それから、しばらくして彼は頷いてくれた。

「いいだろう。契約完了だ」