脇役巫女の契約結婚

「要さん、今のは……」
「継承の儀式だ。必要なのは神前で陰と陽の血を交わらせ神に祈りを捧げること……大掛かりな衣装も会場も、親戚連中も必要ない。必要な条件は全て達成している」
「つまり、家督継承の儀式には成功したのですね……!」

 まだ騒々しい雰囲気が残る中、美弥子は感激で声を上げる。
 自分が嫁いできた理由は他でもない儀式のためだ。役目を全うできたことに、美弥子は心から安堵する。

(でも……成功したということは、私はもう要さんと夫婦では……)

 夫婦関係は儀式が終わるまで、最初からそう決められていた。
 ついに、この時が来たのだと美弥子は覚悟を決める。

「その、離婚についてなんだがな」
「はい。心得ております」

 胸に広がる痛みに気づかないふりをして、美弥子は頷く。
 だが、いつまで経っても別れの言葉は告げられなかった。
 
「新しい就職先は……俺の妻、というのはどうだ?」
「……え?」

 要は頬を赤くして、一世一代の告白とでも言うかのように切実に美弥子に縋る。

「いや、そうではないな。認めよう。美弥子、君が好きだ。俺は君を愛してしまった!」
「……!」
「互いに互いを愛さないという契約を、俺は破ってしまった。すまない。だが、もう君を手放すことなどできない」

 緊迫した現場に、要の声が響き渡る。
 隊員たちも固唾を飲んでこちらを見守っていた。
 夜風がふわりと美弥子の髪を撫でる。

「私は、人を愛するということを知りません」
「俺も同じだ。それでも、俺は君を愛していると誓える」

 いつか、誰かを愛してみたいと願っていた。
 けれど、愛は簡単に失われるものだということを知ってしまった。
 それでも、要は美弥子を愛していると言う。

「お嬢さん、どうかもう一度私と結婚してくれませんか」

 出会った時と同じように、要がひざまづて手を差し伸べた。

  —————私も、愛を知りたい。あなたを、愛したい。

 いつか、こんな日が来ることを願っていた。
 美弥子は恐れることなく要の手を取った。
 愛のない契約は、今ここに終わる。
 いつの間にか雨は止み、空は朝焼けの光に包まれ始めていた。