「不幸を祓う護り札、なぁ」
要は執務室で、部下の持ってきた調書を訝しげな目で何度も見返す。
先日、街中で青井彰が起こした騒動について調べたところ新たな事実が浮かび上がってきた。
「まさか、彰がここ数日この辺りを騒がせていた呪符と同じものを持っていたなんて、思いもよりませんでしたよ。玻璃坂の社の関係者からの貰い物と言っていましたが……どう考えても怪しいですよね」
「ああ。だが、青井の持っていた札とやらには微かに力が遺されている。それも、巫女の結界によく似たものだ。無関係とは言いきれない」
よりによって自分の部下が事件に関わっていたなんて、要にとっては頭が痛い話だ。
芹奈の不貞行為を彰に暗に伝えたのは要だが、元々出世意欲の強かったはずの彰が、このような重大な規律違反をヤケになって起こすとは考えずらかった。
その上、本人は呪符の影響を受けたのか精神的にひどく取り乱している状況だ。
(青井は同期と比べて世渡りの上手い男だったはず。今の地位を捨てるような道を、痴情のもつれで簡単に選ぶものか?)
彰は世渡りが上手いからこそ、美弥子という格好の餌を要に差し出したのだ。
それがこの落ちぶれようは一体どうしたというのだろう。
ほんの数ヶ月前の青井と同じだとは考えられなかった。
だが、要の頭を悩ませているの問題はこれだけでは無い。
「ま、青井の処罰は規則通り行うとしてだ。この状況下では俺は軍から離れるわけにはいかん」
「ですが、明日は天岸家の儀式の日でしょう。そういううわけにもいきません。全く、どうしてこう狙い済ましたかのように重なるのか……」
副官間でもがつられて頭を抱えている。
部下が呪符を所有しただけでなく、その影響を受けて精神錯乱に陥っている。
さらにその呪符の出処に、玻璃坂の社が関わっている可能性の浮上。
そして今現在、社を囲むように次々と配置されている呪符。
(よりによって俺の管轄内で、その上俺の部下も巻き込んでいるなんて……)
もし重大な結果になれば、間違いなく真っ先に要の首が飛ぶ。
それで済めば良いが、最悪の場合社の龍穴に欠損を生じさせでもすればどんな手を尽くそうが取り返しはつかない。
そうなれば、この街から神の庇護は消え失せる。
(いや……まさか……)
そこまで考えてから、要はある考えに思い至る。
「……あながち、お前の考えも間違いではないかもな」
「と、いいますと」
「今回の一連の事件、万が一解決できなかった場合、まず責任を問われるのは誰か分かるな」
「隊長ですね」
「そして一連の事件、以前俺たちが解決した呪殺事件と手口が瓜二つだ」
「その通りです」
「で、犯人は捕まったものの以前容疑は否認しており、現在も仲間が逃亡中と推測されている。つまり俺を恨んでいる人間がまだ野放しになっているということだが……ここまで言えばわかるか?」
副官の顔色がすぐに変わる。
「まさか、狙いは龍脈ではなく隊長だったと……!?」
「あくまで推測だがな。しかし、そうでもなければわざわざ危険を犯して陰陽部隊の隊員に手出しをする理由がないだろう」
不可解な犯行の足跡に、今回の彰の一件。
どうも、龍脈を狙うにしては決定的な行動に欠けている。
だからこそこちらとしても出方を考えあぐねている状況だったが、以前の犯人を捕まえたことで仲間から恨みを買ったのなら、と考えると辻褄は合う。
「俺たちの任務は結界を守護することだ。捕まえた犯人の取り調べやその後はどうしても管轄外になる。これまでも、内輪揉めで陰陽部隊の隊員の個人情報を流されたことがあっただろう」
「三年前の事件ですか。解決しましたけど、未だに我々と他の部署では溝が深いですからね」
前線に立たない軍人がどこにいると揶揄され、陰陽道はもはや時代遅れだと嘲笑われることもある。
時代の流れは仕方がないと要は気にしていないしら異動したいならいつでも歓迎するとまで言い返しているが、それ故に他と生じる溝は個人の努力ではどうにも出来ない。
「どうだ。陰陽部隊のエリートというのも中々大変だろう?」
「本当ですよ、自慢してる場合じゃありませんって!」
副官は要の余裕な態度に焦るばかりだが、要にはある考えがあった。
(美弥子には何かあった時の対処法を教えてあるが……このまま罠にかけた方が早いな)
要は立ち上がり、サーベルを腰に携える。
「まあ、なんだ。売られた喧嘩は買う主義だからな」
そちらがその気なら、こちらも本気で戦うまで。
要は昔から、それはもう負けず嫌いな男だった。
要は執務室で、部下の持ってきた調書を訝しげな目で何度も見返す。
先日、街中で青井彰が起こした騒動について調べたところ新たな事実が浮かび上がってきた。
「まさか、彰がここ数日この辺りを騒がせていた呪符と同じものを持っていたなんて、思いもよりませんでしたよ。玻璃坂の社の関係者からの貰い物と言っていましたが……どう考えても怪しいですよね」
「ああ。だが、青井の持っていた札とやらには微かに力が遺されている。それも、巫女の結界によく似たものだ。無関係とは言いきれない」
よりによって自分の部下が事件に関わっていたなんて、要にとっては頭が痛い話だ。
芹奈の不貞行為を彰に暗に伝えたのは要だが、元々出世意欲の強かったはずの彰が、このような重大な規律違反をヤケになって起こすとは考えずらかった。
その上、本人は呪符の影響を受けたのか精神的にひどく取り乱している状況だ。
(青井は同期と比べて世渡りの上手い男だったはず。今の地位を捨てるような道を、痴情のもつれで簡単に選ぶものか?)
彰は世渡りが上手いからこそ、美弥子という格好の餌を要に差し出したのだ。
それがこの落ちぶれようは一体どうしたというのだろう。
ほんの数ヶ月前の青井と同じだとは考えられなかった。
だが、要の頭を悩ませているの問題はこれだけでは無い。
「ま、青井の処罰は規則通り行うとしてだ。この状況下では俺は軍から離れるわけにはいかん」
「ですが、明日は天岸家の儀式の日でしょう。そういううわけにもいきません。全く、どうしてこう狙い済ましたかのように重なるのか……」
副官間でもがつられて頭を抱えている。
部下が呪符を所有しただけでなく、その影響を受けて精神錯乱に陥っている。
さらにその呪符の出処に、玻璃坂の社が関わっている可能性の浮上。
そして今現在、社を囲むように次々と配置されている呪符。
(よりによって俺の管轄内で、その上俺の部下も巻き込んでいるなんて……)
もし重大な結果になれば、間違いなく真っ先に要の首が飛ぶ。
それで済めば良いが、最悪の場合社の龍穴に欠損を生じさせでもすればどんな手を尽くそうが取り返しはつかない。
そうなれば、この街から神の庇護は消え失せる。
(いや……まさか……)
そこまで考えてから、要はある考えに思い至る。
「……あながち、お前の考えも間違いではないかもな」
「と、いいますと」
「今回の一連の事件、万が一解決できなかった場合、まず責任を問われるのは誰か分かるな」
「隊長ですね」
「そして一連の事件、以前俺たちが解決した呪殺事件と手口が瓜二つだ」
「その通りです」
「で、犯人は捕まったものの以前容疑は否認しており、現在も仲間が逃亡中と推測されている。つまり俺を恨んでいる人間がまだ野放しになっているということだが……ここまで言えばわかるか?」
副官の顔色がすぐに変わる。
「まさか、狙いは龍脈ではなく隊長だったと……!?」
「あくまで推測だがな。しかし、そうでもなければわざわざ危険を犯して陰陽部隊の隊員に手出しをする理由がないだろう」
不可解な犯行の足跡に、今回の彰の一件。
どうも、龍脈を狙うにしては決定的な行動に欠けている。
だからこそこちらとしても出方を考えあぐねている状況だったが、以前の犯人を捕まえたことで仲間から恨みを買ったのなら、と考えると辻褄は合う。
「俺たちの任務は結界を守護することだ。捕まえた犯人の取り調べやその後はどうしても管轄外になる。これまでも、内輪揉めで陰陽部隊の隊員の個人情報を流されたことがあっただろう」
「三年前の事件ですか。解決しましたけど、未だに我々と他の部署では溝が深いですからね」
前線に立たない軍人がどこにいると揶揄され、陰陽道はもはや時代遅れだと嘲笑われることもある。
時代の流れは仕方がないと要は気にしていないしら異動したいならいつでも歓迎するとまで言い返しているが、それ故に他と生じる溝は個人の努力ではどうにも出来ない。
「どうだ。陰陽部隊のエリートというのも中々大変だろう?」
「本当ですよ、自慢してる場合じゃありませんって!」
副官は要の余裕な態度に焦るばかりだが、要にはある考えがあった。
(美弥子には何かあった時の対処法を教えてあるが……このまま罠にかけた方が早いな)
要は立ち上がり、サーベルを腰に携える。
「まあ、なんだ。売られた喧嘩は買う主義だからな」
そちらがその気なら、こちらも本気で戦うまで。
要は昔から、それはもう負けず嫌いな男だった。

