脇役巫女の契約結婚

 その日は、朝からずっと雨が降り続いていた。

「はやく梅雨が明けて欲しいですねぇ」
「そうねぇ。これじゃあ洗濯物も干せないわ」

 縁側で困った顔をする清子に、美弥子も同意する。

「こんな雨の中、旦那様は見回りですって。大変ですよねぇ」
「ええ。そのおかげで私たちが安心して暮らせるのだから、感謝しなければならないわ」

 数ヶ月前の呪殺事件は解決したようだが、災いはひっきりなしに起こる。
 ひとつ解決すればまたひとつ問題が、と要は今日も忙しそうだった。

(近頃は、要さんとも顔を合わせていないし……)

 一緒に百貨店へ出かけて以来、なんだか要は美弥子と距離を取っている。
 任務が忙しいことは分かっているが、たまに顔を合わせても素っ気ない返事ばかり。
 まるで、美弥子と無理に距離を取ろうとしているように思える。

(でも、もう少しで離婚だものね。私は私の役目を果たすだけよ)

 その役目に、要と必要以上接することは求められていない。
 そもそも、最初から互いに互いを愛さないことと決められていたのだ。
 美弥子は契約を守ると言った。美弥子の願う条件を叶えてくれるのなら、喜んで妻を演じるとも。

 だから、この胸の痛みはただの気の所為。
 しとしとと降り続く雨に、美弥子は視線をやって何も考えないことにした。

「奥様……」

 美弥子が何を思っているのか、清子は察しているのだろう。
 離婚までもう少しということで、清子たちにも気を使わせてしまっているようだった。
 
 と、そこへみえが買い物かごを手に声をかける。
 
「奥様、清子。私ちょっと買い出しに行ってきますから……」
「待った!」

 大きな声を出したのは清子だ。

「私と奥様が行きます!」
「まあ、急にどうして……」

 そんな約束はしていないはずだ。
 だが、清子とみえは顔を合わせて何か視線で合図をしている。

「もしかすると、見回り中の旦那様にお会い出来るかもしれませんよ!」
「え? ええ、そうかもしれないけれど……」
「ずっと屋敷にいても退屈してしまうだけですよ! さあさあ奥様、気分転換だと思って!」
「いいですね。このところずっと出かけていませんでしたから、ちょっと足元は悪いですがお散歩だと思ってお出かけになられてはどうでしょう」

 これほど勧められれば美弥子とて気づく。
 二人は美弥子を心配してくれているのだ。

「そうね。そうしましょうか」

 断るのは可哀想だ。美弥子は素直に二人の気遣いを受け取ることにした。