脇役巫女の契約結婚

 そうして翌日、清子とみえにより着飾られた美弥子は、要と共に百貨店へ出かけた。
 実家から待ってきた着物はどれも地味な色地の銘仙ばかりだったが、帯留めやレースの手袋など小物を組み合わせることでなんとか要の隣に並べるほどになった。
 今日の要の服装は見慣れた軍服ではなく、仕立ての良い上品な灰色の背広だ。
 彼のすらりとした長い手足にはよく映え、街行く姿はまさしく都会の紳士。
 巫女たちが天岸大尉と声を上げて夢中になっていたのも頷ける。

「五階へ参ります」

 エレベーターガールの声とともに昇降機が動く。
 狭い箱の中で自然と要との距離が近くなり、美弥子はなんだか気恥ずかしかった。
 
 婦人洋品フロアに到着し、気後れしている美弥子を連れて店に入り、いくつか商品を見繕う。

「この日傘、良いんじゃないか」

 要が選んだのは白いパゴダ傘だ。レースで縁取られ、内側には紫陽花の文様があしらわれている。
 すかさず販売員が傘を広げて美弥子に持たせる。

「可憐な奥様にはよくお似合いですわ。白がとてもよく映えますわね」

 まあ素敵と彼女は歓声を上げ、美弥子を姿見の前へ誘導する。
 鏡の中の自分は居心地悪そうにしていながらも、普段よりも顔色は明るく見えた。
 
「じゃあこれをひとつ」
「要さん! そんな高価なもの、私は……」
「さして高いわけではないだろう。宝飾品の方がよほどかかると思うが」

 即決してしまう要を前に、美弥子はどうして良いのかとしどろもどろになってしまう。

「奥様、こういう時は甘えるものですわよ」

 ほほ、と販売員が囁く。
 初々しい夫婦だと思っているのだろう。

「似合ってるじゃないか。美弥子は、もう少し自分に自信を持て。そうやって下を向いてばかりいるから舐められる」
「要さん……」

 鏡の向こうの美弥子を、要が凛とした眼差しで見つめる。
 
「自信を持つことこそが、どんな宝石よりも君を輝かせる飾りになる。君は十分魅力的な人だと自覚した方がいい」

 初対面の時のように、王子様のような輝かしい笑みを見せてくれる。
 美弥子にとって要が眩しく見えるのは、彼が自分に絶対的な自信を持っているからなのだろうとようやく理解した。
 そして、いつか自分も彼に相応しい人になれたら、それはどんなに嬉しいことだろうかとも。

「旦那様は素敵な美学をお持ちですね」
「だろう?」

 販売員の言葉に、要は自慢げに胸を張っていた。