恋に落ちるのは、ただ一瞬で、明確な理由なんて存在しない。
その瞳が僕を映して、緩やかな弧を描くのを見た瞬間、いつも体が強ばって緊張していたことに、きっと君は気づいていなかっただろう。切なくて、苦しくて、もう嫌だって散々思ったのに、それを超える幸せを感じて、何よりも毎日が楽しかった。君の顔を見ているだけで、心が満たされた。胸の奥がきゅっと掴まれるような、あの感覚。目を閉じて君を思い出すと、あの日々に戻れる気がした。
運命だなんて、そんなありきたりな言葉でしか言い表せない自分に嫌気がさす。でもたぶん、一生の恋をしたんだ。いつも穏やかで、年下なのにやけに大人びていた。君に恋をした。叶いもしない、恋をした。
感傷に浸って、流行りの失恋ソングを聴いては悲劇のヒロインぶっていたあの頃。もう、取り戻せない青春はいつから色褪せてしまったのか。変わらないものも、変わっていったものも、全てが僕の中に残っているのに。逃げ出したのは僕だった。サヨナラは必然だと分かっていて何もしなかったのは自分なのに、未練がましく、雨の日はいつも君のことを思い出す。
たまたまつけたテレビから流れるミュージックを聴いて、顔を顰める。苦い思い出だ。ずっと聴いていた、大好きだった失恋ソング。彼のことを思い出してしまうから、スマホからデータを削除したのに、人気の楽曲は今もまだ街中やテレビでよく流れている。
君は僕のことなんて忘れてしまっただろうか。離れたのは僕なのに、そんなことを気にするなんて。きっと今頃、君は色鮮やかな青春を謳歌しているだろうに。僕だけが過去にとらわれている。
イントロを聴くだけで、呼吸をするのもままならない。喉奥からこみ上げてくるものを必死にやりすごして、はくはくと酸素を求める見苦しい姿は誰にも見せられない。音もなく流れ落ちる涙は、どんな色をしているのだろう。
早くこの気持ちがなくなってしまえばいいのに。そう何度も星空に願ったけれど、この恋を失ったら、僕は僕じゃなくなるのだろうとも思う。だから、今日も居もしない神さまに祈りを捧げるんだ。どうか君が今日も笑って過ごせますように、と。



