沢田くんはおしゃべり


「さ、沢田くん……私だよ」
「!!【こ、この声は……佐藤さん⁉︎】」
 
 沢田くんが顔を上げて振り向いたので、私はドキッとして沢田くんから離れた。

「ごめんね、突然」
「あ……うん。【なーんだ、佐藤さんだったのか。……えっ⁉︎ 佐藤さん⁉︎ い、今俺に抱きついてなかった……⁉︎ 俺に抱きついてなかったーっ⁉︎((((;゚Д゚)))))))】」

 うまい言い訳が思いつかなくて、私はただもじもじとした。

【佐藤さん……恥ずかしがっている⁉︎ か、可愛いすぎるかよ!! ああああ〜〜もっと早く気づいていれば幸せを噛みしめられたのに!! 背後霊かと思って鳥肌立ててた俺。何やってんのバカーっ!!。゚(゚´Д`゚)゚。】

 赤い顔をして悔しがる沢田くん。
 背後霊と間違えるなんて、本当にどうかしてるよね。


「ど、どうしたの……?【なんだろう、ドキドキする!!】」
「あ、あのね。実は……今度の花火まつりのことなんだけど──」


 私は気を取り直して、深刻なトーンで切り出した。
 クラスのみんなも来ちゃうっていうことを伝えなきゃ。
 残念だけど、仕方ない。
 そう告げようと口を開けたその時だ。
 

【花火まつり……*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・* ああ、この言葉を聞くだけで脳内でドーパミン出ちゃう。多分指の一本や二本折られても気づかないね。三本目はさすがに気づくかもしれないけど、気づいてもどうってことないと思えるね。だって佐藤さんの浴衣が見られるかもしれないんだもん。ああ……今から佐藤さんがリンゴあめを舐める姿を想像してしまう! 金魚すくいに夢中になっているところを想像してしまう〜!!(*´Д`*)】


 沢田くんは目を閉じて未来へトリップしてしまった。
 どうしよう。こんなに楽しみにしているなんて。
 二人きりじゃないなんて言いづらい。
 

【俺……佐藤さんと花火を見られたら、もう一度ちゃんと告白するんだ。それで、今度こそちゃんと返事をもらうんだ……!】


 あわわわわ、ついに死亡フラグまで言い出したよ!
 ダメだよ、沢田くん! 叶わない夢になっちゃうよ!


【もう、誰も俺たちの邪魔はできない】


 カッコいいけど、すでに詰んでます!
 邪魔が入りまくることは決定事項でして!


「で……花火まつりが何か?【(((o(*゚▽゚*)o)))】」


 ああ……もう、なんも言えねえ……。



「花火まつり、楽しみだね……」
「うん【うん(((o(*゚▽゚*)o)))】」

 沢田くんの目がキラキラしている。眩しすぎて直視できない。
 私はうつむいた。
 沢田くんを傷つけたくない。
 でも、当日ショックを受けるよりは、今この場で言った方がいいよね。
 覚悟を決めて、私はそっと顔をあげた。

「花火まつりのことなんだけどね。ちょっと残念なことがあって……」
「えっ……【な、なになに⁉︎((((;゚Д゚)))))))もしかして、都合が悪くなった⁉︎ 行けなくなった⁉︎】」

 沢田くんは無表情で焦りだした。私は慌てて首を振る。

「ううん、行けないとかじゃないの。ちゃんと行けるんだけど」
【わーいわーいヽ(*^ω^*)ノ】

 沢田くんは胴上げされた人みたいに浮き上がる。ちょっと浮くの早いから待って!

「でも、実は……森島くんがね」
「えっ……?【まさか、森島くんがまた佐藤さんをデートに誘ったの⁉︎ 俺はフラれたのか⁉︎ バリーン!!(ガラスのハートが割れる音)。゚(゚´Д`゚)゚。】」

 沈むのも早い!! ちょっと待って!

「うん、まあ誘われたんだけど、私だけじゃなくってみんなも……」
「えっ……【みんなもってどういうこと⁉︎ 森島くん、さっそく浮気⁉︎ 佐藤さんだけじゃ飽き足らず、あっちもこっちも手当たり次第デートに誘ったってこと⁉︎ そ、そんな人だったなんて全っ然気がつかなかった……!:(;゙゚'ω゚'):】」

 確かに森島くんはそういう人だったけど、ちょっと待ってってば!

「勘違いしないでね、森島くんの本命は杏里ちゃんで、私でも他の子でもないの。それでね」

「……!【本命がいるのに、どうして森島くんは俺の佐藤さんにまで手を出すの⁉︎ 佐藤さんも、どうして森島くんの誘いに乗っちゃうの? 俺が先に約束したのに、どうして? うっ、うっ、うわああああん!!。゚(゚´Д`゚)゚。 】」


 沢田くんは無の表情のまま、今にも泣き崩れそうになっている。
 なんだか話せば話すほど沢田くんが誤解しちゃう。


「沢田くん、落ち着いて。私の話を聞いて。二人でデートはできないかもしれないけど、もしかしたら杏里ちゃんが──」

 私は沢田くんの顔を覗き込んで必死に説得しようとした。けど、


「……いやだ」


 沢田くんは私から顔を背けた。
 黒い髪が目の前で揺れるのを見て、私の胸がズキッと痛んだ。
 
 傷ついた瞳を震える右手で覆い隠し、沢田くんが呟く。


「森島くんと俺……どっちが大事なの?」

 えっ……?

 キラリと光る何かが沢田くんの指の隙間に見えたような気がして、私は言葉を失った。
 

 沢田くん、本当に泣いてる……?
 

 激しい胸の痛みに襲われて棒立ちになった私の横を、沢田くんが無言で音もなく通り過ぎた。
 ドキン、ズキン、と心臓が暴れる。


 どうしよう。沢田くんを本当に泣かせちゃった……!

 
 膝の力が抜けてコンクリートに座り込んだ私のそばに残されたのは、沢田くんのお弁当箱と、中身のおはぎだけだった。