春のうちは快適だった屋上だけど、もうすぐ七月というこの時期は地獄の一丁目一番地くらいの暑さがにじり寄っている。
カップルたちも消えた楽園にひとり取り残された沢田くんは、給水タンクの日陰でひっそりと弱っていた。
【あ゛づ い゛よ゛ーーーっ。゚(゚´Д`゚)゚。食欲が出ないよーーっ!!】
教室で食べればいいのに、なんでいつも屋上なんだろう。
私はそっと近づいて、ほとんど手のつけられていない沢田くんのお弁当を見てみた。
そこには小豆たっぷりのおはぎがぎっしりと詰め込まれていた。
……ちょ、沢田くんのお母さん!!
息子さんが恥ずかしがって教室で食べられないお弁当、なんとかしてあげて⁉︎
おはぎだけって、絶対からかわれちゃうよ!
【お彼岸にはまだ早いのに、季節外れで恥ずかしいなあ(*´Д`*)】
って、恥ずかしポイント、そこ⁉︎
沢田くん、と普通に声をかけようとして、私は踏みとどまった。
せっかくの二人きりだから、ちょっと驚かせてみたい。
そろりそろりと近づいて、暑さでフラフラしている沢田くんに後ろから目隠しをして、
「だーれだ?」
「⁉︎【あっ……この可愛い声はまさか、佐藤さんっ?】」
……みたいなことをやってみたい。
私は足音を立てないようにそーっとそーっと沢田くんの背後に近づいた。すると何かを察したのか、沢田くんの肩がビクッと震えた。
【い、今……俺の後ろで、何か怪しい物音がしたような……いや、まさかな。そんなバカなことがあるわけがない! こ、こ、こ、ここは学校だよ? 真昼間だし! お化けなんて出るわけがないだろ! お前の気のせいだよ、沢田空! でも、気のせいじゃなかったら……? ひょっとして屋上から飛び降り自殺をした生徒の怨霊がいて、そいつが無類のおはぎ好きで、俺のおはぎの匂いに辛抱たまらず出てきてしまい、俺を殺しておはぎを奪い取ろうとしているのでは……((((;゚Д゚)))))))!!!】
どこまで想像力逞しいのよ沢田くん。あと、おはぎ言い過ぎ。
【怨霊さん!! お、おはぎならいくらでもあげるのでどうか命だけはお助けを……っ!。゚(゚´ω`゚)゚。もうすぐ佐藤さんと花火まつりに行く約束をしているんです!! それまでは死にたくないんです〜〜!!】
可愛すぎるよ沢田くん。
声を出さないように必死でこらえたけど、結局引き笑いの「ヒッヒッヒ」っていう魔法使いのおばあさんみたいな声が出てしまった。
【あああおばあさんの怨霊さんでしたか!!((((;゚Д゚)))))))やっぱりお年寄りはおはぎが大好きですもんね! こだわりのあんこをこしらえそうですもんね! でもごめんなさい、うちのおはぎはそこまでこだわってないと思いますよ。なにしろ俺の母ちゃんが作ったやつなんで、クオリティーは低いです! しかも作ったのは昨日なので、もう賞味期限ギリギリですし、餅米がちょっと硬いですよ! 入れ歯とか欠けませんか? 大丈夫です? えっ? 幽霊だから入れ歯なんてない? それもそうですよねあははははは! いやああああ、怖いよ〜〜っ。゚(゚´Д`゚)゚。】
沢田くんはビビリ度MAXでわけのわからないことを言っている。
面白いけどもうそろそろホッとさせてあげよう。
「だーれだっ?」
私は沢田くんの両目を塞ごうと、左右から手を差し出そうとした。
【ぎゃあああああ〜〜!!!((((;゚Д゚)))))))】
その瞬間、びびった沢田くんが肩をすくめて頭を低くしてしまったので、私は勢い余って沢田くんに覆い被さるようなバックハグをしてしまった。
「えっ……えっ⁉︎【背中に感じるこの感触は、まさか……!】」
きゃああああ〜〜!! ごめん!! これは事故だよ、沢田くん!!
恥ずかしくてどうしたらいいのかパニック状態の私に、沢田くんは。
【もしや、実体のある背後霊⁉︎ ((((;゚Д゚)))))))】
って、まだビビってるんかい!
霊から一旦離れて、沢田くんっ!!

