沢田くんはおしゃべり


 小野田くんに邪魔された私たちは、仕方なくその場でバイバイした。

 次の日こそは! と私は意気込んでいたけど、朝はいきなり麻由香ちゃんのマシンガントークに付き合わされ、休み時間はみんなの目が気になって話しかけられず、お昼休みは沢田くんが行方不明になっていた。

 あとで心の声を聞いてみたら、

【母ちゃんめ……! 腐ったゆで卵を弁当に仕込むとは……ぐおおおお、お腹が痛い〜〜!!。゚(゚´Д`゚)゚。】

 ……とのこと。
 沢田くんはどうやらお母さんのトラップにかかってトイレから出られなくなっていたようだ。

 結局、お腹の痛みは放課後まで続いたようで、沢田くんは青い顔をして帰ってしまった。


 そして翌日。
 とうとう沢田くんと隣でいられる最後の日がきた。
 今日の帰りのホームルームでクジが引かれ、その場で席を替える。
 私たちが一緒にいられるのはあとたったの数時間だ。
 
 朝、私は誰よりも早く教室に到着して祈りを捧げた。

 どうか沢田くんとまた近い席になりますように!
 あと、どうか沢田くんのお腹が回復していますように!


 すると。

【どうか佐藤さんとまた近い席になりますように(>人<;)!!】
 教室のドアが開くと同時に、沢田くんの声がした。

「あっ……沢田くん」
「あ……【佐藤さんっ(//∇//)】」

 私の次に教室に入ってきたのは、沢田くんだった。
 突然の二人きりに、私は思わず戸惑ってしまった。


「お、おはよう。早いね」
「うん……【佐藤さんと一秒でも長くいたくて、早く来ちゃった……】」

 沢田くんの瞳が朝露のように煌めいている。
 なんだか吸い込まれてしまいそう。 

「あっ、そういえばお腹、もういいの?」
 照れ隠しに尋ねると、沢田くんは目を丸くさせた。

「あ、うん【あれっ!? 俺お腹壊してたって佐藤さんに言ったっけ!?((((;゚Д゚)))))))恥ずかしーっ!! 学校のトイレでう○こしたこと女子にバレるって結構ダメージでかいんだけど!! いったいどんな顔をすれば!?】」

 悩んだ挙句、沢田くんはちょっとしゃくれた。

【いや、シャクレとる場合か!!。゚(゚´Д`゚)゚。ぜってー違うわ!!】

 うん、違うね。
 でも面白かった。
 こんなやり取りも今日で最後なのかな。


「今日、席替えだね」
「……うん」
 
 しんみりしたくはなかったけど、やっぱりしんみりしてしまう。

【佐藤さん。知っていると思うけど、俺……めちゃくちゃクジ運悪いんだ(´;ω;`)】

 うん、知ってる。私はうなずきそうになったけど、グッと堪えた。

【だから……奇跡は信じない】

 沢田くんの顔がだんだん男らしくなり、私をまっすぐに見つめた。
 ドキッとしたその時、沢田くんが心の中で言った。


【佐藤さんとずっと一緒にいたいから──今日、俺は君に告白する】


「佐藤さんに……大事な話があるんだ【言っちゃった((((;゚Д゚)))))))】」
 
 ついに、本当に、いよいよ、マジで、リアルに、この時がやってきた!
 私はごくっと息を呑んだ。
 心の声が聞こえてこないから、辺りには誰もいない。
 今がチャンスだよ、沢田くん!!

 沢田くんは真剣な眼差しで言った。

「俺は佐藤さんのことが……【好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだーっ!!!_:(´ཀ`」 ∠):ぐはっ……燃え尽きた……】」


 こらーっ!! 心の中だけで燃え尽きないでーーっ!!
 気持ちは充分伝わったけども。


「何? 沢田くん。はっきり言ってくれなきゃ分かんない」

 やっぱり、沢田くんの口からちゃんと聞きたい。
 私はじっと沢田くんを見つめた。
 

【うっ……! どうしよう。悪い予感がする……!。゚(゚´ω`゚)゚。】

 沢田くんは急にピヨこになってピヨり出した。

【なんだかフラれそうな予感がする! 佐藤さん、なんか真剣な顔してるし、いつもと違う……!((((;゚Д゚))))))) はっ! そうか。俺がいつも何か言いかけてやめるからイライラしてるんだ! そもそも、あ、うんしか言わない俺のこといいかげんにしろ! ってどつきたいと思っているのかもしれない! いつも優しい天使のような佐藤さんが怒るとどうなってしまうんだ? ひょっとして小悪魔になるんじゃ……! 小悪魔な佐藤さん(*´Д`*)ドキドキ。って、なに喜んでんだ俺! ヘンタイか! 確かにそんな佐藤さんも見てみたいよ! でも】


「沢田くん!」


 おしゃべりはもう、いいよ。
 聞きたいのはひとつだけ。

 私の心の声が聞こえたみたいに、沢田くんは真顔になった。そして。


「……好きです、佐藤さん」

 私をちゃんと見つめて、沢田くんは言った。



「俺の彼女になってください」