沢田くんはおしゃべり


 開園と同時に真っすぐ向かったおかげで、私たちは待ち時間ほぼ無しでジェットコースターに案内された。

「よかったね、沢田くん」
「……うん【ぎゃーっ!! 意外と早く乗れたー!!((((;゚Д゚)))))))ちょっと待って、心の準備がっ!】」

 硬いシートに座って上から降りてきたU字の安全バーを胸の前で固定されると、私もやっぱり緊張してきた。沢田くんはもっと緊張しているはずだろう。

「ここ、落ちる途中で写真を撮ってくれるサービスあるんだよ」

 雑談で落ち着かせようとしてみたけど、沢田くんは何故か【写真⁉︎】とますますビビった声を出した。
 
【どうしよう、写真撮られている最中に失神して白目剥いていたら……!!((((;゚Д゚)))))))】


 どうやら沢田くんはとにかく半目とか白目とかが気になるらしい。



 
 電車の発車ベルと消防車のサイレンを合体させたようなけたたましい音がした。出発の合図だ。

 沢田くんの表情は相変わらず無だけど、

【今ので寿命が三十年縮んだっ。゚(゚´ω`゚)゚。】

 心の中ではかなりビビっていたもよう。
 次の瞬間、いきなりコースターが発進し、しばらく直進してから斜め上方向に進んでいった。
 上りきったらあとは落ちるしかないことが誰にでも予測可能なのにもかかわらず、わざとかというくらいゆっくり登っていくコースターに、沢田くんは複雑な想いを巡らせる。

【断頭台までの助走が長いっ……! いやあああああ!! やるならひと思いに……あっ。やっぱそれもダメええええ!!】

 私も怖い。怖いけど、やっぱり乗って良かった。
 沢田くんと一緒だから、楽しさ百倍だよ。
 沢田くんの手を握る代わりに、ぎゅっと胸の前の安全バーを抱きしめた。


 そしてついにコースターは青ざめる沢田くんを乗せて頂点から一気に真っ逆さまへ!

【あああああああああああああああああ〜〜〜〜!!((((;゚Д゚)))))))】

 と思ったら今度は横へ!

【うおおおおおお〜〜〜!! Gがきついきついきつーい!!】

 一回転!

【あはははははははおえええっ、うははははははは!!】


 沢田くんも恐怖が一周回って笑っちゃったみたいだ。途中でちょっと吐きそうになったみたいだけど。

 
 こうして、全長2400メートルのコースを約3分間で暴走し続けたコースターはあっという間に乗り場へと戻ってきた。

「はあ、楽しかったね、沢田くん」
「あ、うん」

 眉ひとつ動かしてない沢田くんだけど、心の中はこうだ。

【俺、生きてるのか……? 全然乗った後の記憶がない。゚(゚´ω`゚)゚。 気がついたらここにいた。おのれジェットコースターめ、奴はとんでもないものを盗んでいきました。俺の記憶です_(┐「ε:)_チーン】


 なんだ、意外と元気だな。



 コースターから降りて、私は言った。

「面白かったね、沢田くん」
 主に沢田くんの心の声が。

「うん【記憶ないけど】」
 沢田くんもフラつきながらコースターを降りる。頭からは消えてしまったようだけど、体にはしっかりと恐怖が記憶されているようだ。

【あー気持ち悪いっ】

 斜め上の沢田くんの横顔をチラッと見てこっそりと笑う。ジェットコースターに酔ってる沢田くんがわけもなく可愛い。
 

 階段を使って地上へと戻ってみると、正面の花壇の前にフォト屋さんが屋台を出していた。プリントされたばかりの写真がコルクボードに既にたくさん貼り付けられている。

「あっ、沢田くん。写真撮れてるよ! 見てみようよ」
【そうか、忘れてた! 落ちた瞬間の写真撮られてたんだっけ】

 私はワクワクしながらズラリと貼られた写真を眺めた。連写で撮ったのだろう。沢田くんと私のツーショット写真がいくつかあった。

 さて、沢田くんはどんな顔をして写っているのかな?

【うわああああ、俺すげービビってるよ! 恥ずかし〜〜!!】

 沢田くんは照れているけど、彼はびっくりするくらいの真顔で写っていた。
 まるでジェットコースターに乗り慣れすぎてる百戦錬磨の猛者って面構えだよ。しんしんと降る雪を眺めているかのような静謐(せいひつ)な面持ちだよ! そのまま一句読み上げそうだよ!!


 それにひきかえ、私ってば思いっきり目をつぶっちゃってる。
 当たり前すぎてつまんない顔してるなあ、なんて思った時だった。


【あーっ、佐藤さん、両目つぶっちゃってる! 面白かったとか言ってたけど本当は怖かったのかな?(*´艸`*) 本当は怖いのに無理して明るく振る舞っちゃう佐藤さん……可愛すぎる!! よし、全部買おう】

 沢田くんは無言で長財布を取り出した。
 全部買ったらいきなり結構な出費になるよ⁉︎

「ちょっと待って沢田くん! 買うなら二人で同じの、一枚ずつ買おうよ! 今日の記念に。ねっ!」

「えっ……うん【えええ〜〜一枚だけ?(´・ω・`)それならその一枚を百枚ぶん焼き増ししてもらおう。俺の顔はいらないから佐藤さんのだけ等身大パネル並みの大きさに拡大してもらおう】」


 やめてえええ〜〜! 恥ずかしいよ〜〜〜!!